流転編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ

at first meetings

 早朝の事だった。
 その『剥き出しの牙のような』霊圧を感じた時、私はついに『剣八』が来たと確信した。

「……この霊圧の乱れは、十一番隊の区画からですね」
 その時、私は副隊長として執務室で書類をさばいていたので、いきなり出現した霊圧の乱れを隊長に確認するように呟いた。
 そっと溜め息を吐いて気持ちを落ち着けようとする。
 現在の十一番隊隊長とはあまり交流を持たなかったけれど、職務上の関係で顔見知りではあったので、その人がこれから亡くなるのだと思うと、やるせない気持ちになる。
 けれど、感傷的になっている場合ではないから。
「今まで感じた事のない霊圧です。……大きく、荒削りで……護廷十三隊の者ではないのでしょう。確認してきても良いですか?」
 私の問いに、隊長は無言で許可を出す。私はそれに一礼して執務室を退出した。





 瞬歩で近付いていく現場では、すでに壊滅的な被害を受けた景色が拡がっていて。
「うわ……、凄い」
 思わず嘆息する。
 十一番隊の区画だけではない、横隣の十番隊や十二番隊はもちろん、九番隊や十三番隊の区画にまで被害が及んでいる。
「やばいな……喜助のトコは無駄に財源があるから良いけど、他隊の修理費どこから出そう。特に十四郎のトコは十四郎自身に貯えがないから……臨時の出費は痛すぎるだろうし」
 なにしろ十四郎は孝行者過ぎて、給料のほとんどを実家に送ってしまっている。
 十四郎のお財布まで管理してくれている海燕に、十四郎の隠し貯金がどこまで貯まってるか後でこっそり聞いておかないと不味いかも……。
 私は後日の執務を簡単に予想しながら、今現在、特に霊圧が乱れている場所へと近付いていく。

 一歩一歩、現場に近付くにつれ、負傷しその場にくず折れている隊員の姿が増える。
 既に四番隊への救護要請は飛ばしているのだろう、傷を負いながらも応急処置をして、四番隊の救護班を待ちながら目前の『決闘』を見守る体制だ。
「みんな、なんだかんだ言って出刃亀だなぁ」
「そう言うサンも、いらしてるじゃないっすか」
「……喜助もね」
 私と同じく瞬歩で現れた喜助は、私の突っ込みにとんでもない……という顔になる。
「アタシの場合はお隣ですし、被害者ですから。加害者の顔くらい拝みたくなっただけっすよ?」
「それが出歯亀だっていうの」
 話し合いながら到着した現場に居るのは、ふたりの男と……少女。
「喜助、私ちょっと行ってくる。戻ってくるまでこの場所を確保しておいてくれる?」
「いーっすよ、それくらい。ここが見るのにベストポジションみたいですし、サンと一緒に観戦したいですし」
「ありがとう。すぐ戻るよ」
 行く先は、今にも決闘が始まりそうな、その場。

 ふたつの刃の鈍い輝きの間へ、割って入る。
 
「失礼します。お二人とも、少し、剣を交えるのをお待ちいただけますか?」
 十一番隊隊長の斬魄刀と、剣八の斬魄刀を、たった一本の斬魄刀で同時に受け止めるのは容易くないことだろうけど、まだ『死闘』には至っていない状況ならば、私の斬魄刀なら傷ひとつ負わせずに受け止めれる。始解をする必要もなかった。
 長い間、二刀一対の春水と十四郎の相手をしてきた賜物かな。
「なんでぇ女。邪魔するな」
「……殿、加勢は必要ありませぬ」
「いえ、邪魔立てや加勢をしようとは思いません。ただ、あの子の存在を忘れていらっしゃるのではと……」
 私が指し示した先には、桃色の髪のちいさな女の子。
 ……たぶん、剣八の戦いを間近で見たいだけなんだろうけど。
「あの子をここから避難させたいと思います。もし、全力で戦うのなら、卍解は規模が大きすぎますので、確実にあの子も巻き込まれます。侵入者とはいえ、あれほど小さな子に手をかけるのは、お好きではないでしょう?……あなたも、連れてきた子を気にしながら戦いたくはないでしょう?」
 私の発言に、ふたりは納得してくれたようだ。
 一時休戦とばかりに、それぞれの斬魄刀を下ろしてくれた。
 それらを見てとってから、私はやちるちゃんの目前へ行く。
 私達の会話を聞いていたのか、すでに観戦のための座り込みを止めて、すくっと立ち上がっていた。
「私は
「あたしはやちる」
「やちるちゃんか、良い名前だね。少し離れるけど、ちゃんと此処を見れる場所はあるから安心してね」
「うん、わかった」
 やちるちゃんの返事を聞くと同時に喜助の所へと戻っていく。
 さすがに瞬歩は不味いだろうから、ただの『走』で移動するけど、けっこうな早さを出しているはずの私に、ちゃんと着いてきてくれる。
 もうこの頃からこれだけの力があるなんて、さすがだなぁと苦笑した。

 やちるちゃんを危険から遠ざけるのは、剣八のためではない。
 これから命を落としてしまうだろう十一番隊隊長と、その斬魄刀、そして今日まで彼の下で勤めてきた人達すべてにとって、納得のいく『全力の戦い』をして欲しかった。
 そうでなければ、駄目だと思ったのだ。






「いやぁ、勝っちゃいましたね。あの人」
「当たり前だよ、剣ちゃんだもん!」
 決着の着いた眼下の光景を見下ろして、喜助の言った言葉に、やちるちゃんはさも当然!とばかりに言い切る。それと同時に、闘い終えた剣八の元へと駆けていった。
「あの子もそれなりに出来そうですねぇ……」
「副隊長クラスだよ、たぶんね」
「じゃあ、隊長副隊長の同時交代っすか。条件は満たされてますし、……サンは隊長になるおつもりがないし」
「そうだね。私を推す人には悪いけど、今回も断らせてもらう」
 もう慣れた事だけど、私と同期の春水や十四郎が隊長になった後に『どこかの隊の隊長に』と言われ始め、私の後輩にあたる惣右介くんや喜助が隊長になった頃には、盛大にせっつかれるようになって、……ずっと、それを断り続けている。
 隊長になれる実力があっても、なるつもりなどない。
 ずっと副隊長で良いのだ。
「それに、私以外でウチの隊長の副官を勤める事ができる人材が育っていないから、そういう意味でも無理よ?」
「あー……確かに、あの人の副隊長になれる人材を育てるの、難しそうっすね」
 私の物言いに、喜助はクツクツと笑いを洩らす。
 私もそれに笑い返した。
「重國さんには悪いけど、ずっとこのままで良いのよ」
「……山本総隊長をそう呼べるのは、サンだけっす……」
 さすがです、と喜助は言う。
 そうかな?
「大した理由ではないって前にも話したでしょう?単に『げんりゅーさい先生』って呼びにくかったんだもの。春水に倣って『山じい』は不味いだろうし……。それに、副隊長になってからは『隊長』と呼ぶように気を付けているから、今では非公式の場でしかそう呼ばないのよ?」
「そういう理由でも『重國さん』は充分に凄いっす。まぁ、山本総隊長の副官になれる人材はなかなか育たないでしょうし。この分ならサンはずっと、一番隊副隊長のままで居られますから、アタシ的には安心できて助かるっす」
 ふと、その言葉にひっかかる物を感じた。
「……喜助」
「ハイ?」
「今日は、私が隊長になる可能性がでるかもしれないと悟って、ここまで出歯亀しに来てくれたんだね」
 お隣だから……だけでなく。
 私の事で、心配を掛けていたのだと、今更のように気が付いてしまった。
 私の指摘にバツが悪そうに苦笑する顔を見て、私は微笑む。
「ありがとう。私は、大丈夫だよ」
 十一番隊の新しい隊長の座には、剣八が就く事になるだろうから。
「だいじょうぶ」
「……ハイ」

 私達の眼下では、到着した四番隊の救護班が活動を始めている。
 私は立ち話を止めると、隊長の下へ現状を報告するために走り出した。
 ふって湧いたような十一番隊隊長の交代劇を、正確に伝えるために。

END: at first meetings

This fan fiction by ぞら
初出: 2006年1月7日

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