流転編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
like the twinkling stars
良く晴れ渡った日に、その会話はたびたび繰り返された。
藍染惣右介、護廷十三隊五番隊隊長が、各隊の副隊長を始めとした席官、時として他隊の隊長に己の斬魄刀の能力を見せるのは、決まってこんな風に晴れ渡った日だった。
彼の流水系の斬魄刀は、霧と水流の乱反射をおこして、敵を撹乱させる。その様は、明るい空の下で見るとキラキラと光り、とても美しいのだと、私は人づてに聞いている。
ずっと、何百年も、人づてに聞き続けている。
今日も、そんな一日だった。
とても晴れ渡った綺麗な空の下で彼が斬魄刀の能力を披露したのだと、何もかも終わった後に聞いた。私は思わず、はしたないと知りつつ舌打ちする。
今、私の目の前には、事後報告をしに来た本人……惣右介君が居るけどおかまいなしだった。多少不機嫌な顔をしていても、瀞霊廷内の建物を繋ぐ橋のような回廊に私達以外の存在はないから後で五番隊隊長と一番隊副隊長が喧嘩をしたのかと邪推される事もない。
そんな風に不機嫌を隠さない私を見て取って、惣右介君は困ったように笑う。
「すみません、さん」
「……本気で謝るつもりがないでしょう。惣右介君」
確信犯でしょう、いつだって。
「はい。だから、本気で謝るつもりがなくてすみません」
ぬけぬけと言う姿に、深く溜め息を吐く。
人当たりが良いと評判の彼が、私には少し意地悪く接する。
今も、今までも、そしてこれからも、彼が私にあの本で読んで知ってしまった、恐ろしい側面を見せた事はないし、きっと見せるつもりもないだろう。
だけど、私には『嘘みたいに善い人だと言われている藍染惣右介』は見せてくれなかった。いつだって真央霊術院で出会ったままの、優秀だけど少し癖のある後輩の顔で笑う。
私はその顔が大好きだった。
それがすべてではないと知っていても、好きだと思えてしまう顔だった。
きっと、彼の斬魄刀の本当の能力があんな物でなかったら、こちらの顔の方が周囲に知れ渡っていたと思う。少し癖のある、だけれど優しい顔が。
その顔に見つめられて言われて、不機嫌な顔はいつまでも続かなくて、私は溜め息を吐き終えると苦笑に切り替えて問い返す。
何百年も続けてきた問いを。
「惣右介君は、そんなに私に自身の斬魄刀の能力を見せたくないの?」
私はまだ、一度も『鏡花水月』の発動を見た事がない。
「前と同じ答えを繰り返しますけど、僕の斬魄刀の技より、さんの斬魄刀の技の方が美しいと思うんですよ。それなのに『綺麗だから』披露する事になる僕の斬魄刀の能力をお見せするのなんて恥ずかしいです。だからさんには披露しません」
言外に、私にだけは完全催眠を掛けないと告げる声。
初めてその事実に気が付いた時、泣きそうな気持ちになったのを、今でもハッキリと思い出せる。
「私のアレは技じゃなくて、その手前の現象なんだけど」
「まぁ、そうみたいですけど。僕は好きなんです、さんの斬魄刀」
どこか無邪気に笑って、そう告げる惣右介君。
一筋縄ではない後輩が、私にだけ見せる優しい顔。
いっそのこと心から騙された状態になってしまえば、事実と現実の板挟みを味合わなくて楽だと思うのはこんな時だ。
惣右介君が作る『虚』がいつか海燕を殺すのだと知っていても、未だ起していない悪事の告発はできないし、彼の『完全催眠』がある限り、告発はしても無意味な事だ。
だからただ普通に、こうして過ごす。
どうしようもないと判っているけど、あまりの歯がゆさに今でも時々泣きたくなるよ。
「それで、今日も私の斬魄刀を見たいの?」
「はい。今から駄目ですか?ちょうど東の空が暮れてきましたし」
中空にある回廊から、瀞霊廷を見下ろしながら、にこやかに話す惣右介君は本当に楽しそうだった。
彼自身の斬魄刀を披露する度に、惣右介君は何故か私の斬魄刀の美しさを見たいと強請る。
その真意はさっぱり解らないけれど、己の斬魄刀を美しいと褒められて悪い気もおきないから、私はいつも彼に応えてきた。
「そうね。丁度良い時間帯だと思う。日が暮れるのはあっという間だし、此処で良いかな?」
「お願いします、さん」
にっこりと笑って言う惣右介君の言葉を聞き終えると、己の斬魄刀を手にする。
ただし斬魄刀の解放はしない。そんな必要もなく出来る事だし、惣右介君もそれは心得ていて、私の側から半歩下がった。
私と私の周囲に起こる、斬魄刀の能力を見るためには、近すぎない方が良い。
一見して漆黒に見える黒金(くろがね)の組み紐を巻いた柄、同じく黒金の鞘に飾りのように結ばれた下緒は鮮やかな瑠璃色で、暮れていく空の下で刻々と色を深めていく己の斬魄刀は、贔屓目かもしれないけど綺麗だと思う。
その柄に手を掛け、ゆるりと抜刀する。
始解はしない。刀身は変わらない。けれど心の内側に在るあの夜空を想い描いていると、その気持ちに呼応するように変わらない刀身から『彼等』の霊力があふれていく。
それは光。
キラキラと、キラキラと。
地上に星々が落ちてきたような。
まるで此処が天空だと錯覚させるような。
大小さまざまな輝きが、私を中心にしてこぼれていく。
「本当に、美しいですね」
惣右介君の感嘆の声は、正直な声音だった。
東の空はすっかり紺色になって、西の空は橙色に染まって、鮮やかな夕陽が溶けるように消えていく途中、薄暗くなった私達の周囲には、きらめく星のような輝き。
我ながら、いつ見てもそれは確かに美しい光景で、惣右介君の言葉に頷き返しつつ、顔が自然と微笑んでしまうのが分かった。
「ありがとう。もうそろそろお終いにするね。さすがに完全に日が暮れた後にコレをやっていると、目立って仕方ないから」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました。また見せてください」
光の名残りがまだ漂う中で、鞘に刀身を戻しながら、惣右介君の言葉に思わず苦笑する。
「また、今度も、惣右介君の斬魄刀を見せてくれないんだ?」
見せてもらっても、困るのだけれど。
そんなに隠すようにされると、時々、無性に見てしまいたくなる。
「先程も言いましたけど、僕の斬魄刀の能力は、さんには披露しませんよ」
「ケチ」
「なんとでも言ってください」
「イジワル」
「すみません」
「……惣右介君、やっぱり謝る気がないんでしょ」
「はい。だから、本気で謝るつもりがなくてすみません、さん」
繰り返す、たわいのない会話は、いつか壊れてしまうものだと知っていても、好きだなぁと思えて。
微笑んだ瞬間、最後の光が、きらめく星のように消えていった。
藍染惣右介、護廷十三隊五番隊隊長が、各隊の副隊長を始めとした席官、時として他隊の隊長に己の斬魄刀の能力を見せるのは、決まってこんな風に晴れ渡った日だった。
彼の流水系の斬魄刀は、霧と水流の乱反射をおこして、敵を撹乱させる。その様は、明るい空の下で見るとキラキラと光り、とても美しいのだと、私は人づてに聞いている。
ずっと、何百年も、人づてに聞き続けている。
今日も、そんな一日だった。
とても晴れ渡った綺麗な空の下で彼が斬魄刀の能力を披露したのだと、何もかも終わった後に聞いた。私は思わず、はしたないと知りつつ舌打ちする。
今、私の目の前には、事後報告をしに来た本人……惣右介君が居るけどおかまいなしだった。多少不機嫌な顔をしていても、瀞霊廷内の建物を繋ぐ橋のような回廊に私達以外の存在はないから後で五番隊隊長と一番隊副隊長が喧嘩をしたのかと邪推される事もない。
そんな風に不機嫌を隠さない私を見て取って、惣右介君は困ったように笑う。
「すみません、さん」
「……本気で謝るつもりがないでしょう。惣右介君」
確信犯でしょう、いつだって。
「はい。だから、本気で謝るつもりがなくてすみません」
ぬけぬけと言う姿に、深く溜め息を吐く。
人当たりが良いと評判の彼が、私には少し意地悪く接する。
今も、今までも、そしてこれからも、彼が私にあの本で読んで知ってしまった、恐ろしい側面を見せた事はないし、きっと見せるつもりもないだろう。
だけど、私には『嘘みたいに善い人だと言われている藍染惣右介』は見せてくれなかった。いつだって真央霊術院で出会ったままの、優秀だけど少し癖のある後輩の顔で笑う。
私はその顔が大好きだった。
それがすべてではないと知っていても、好きだと思えてしまう顔だった。
きっと、彼の斬魄刀の本当の能力があんな物でなかったら、こちらの顔の方が周囲に知れ渡っていたと思う。少し癖のある、だけれど優しい顔が。
その顔に見つめられて言われて、不機嫌な顔はいつまでも続かなくて、私は溜め息を吐き終えると苦笑に切り替えて問い返す。
何百年も続けてきた問いを。
「惣右介君は、そんなに私に自身の斬魄刀の能力を見せたくないの?」
私はまだ、一度も『鏡花水月』の発動を見た事がない。
「前と同じ答えを繰り返しますけど、僕の斬魄刀の技より、さんの斬魄刀の技の方が美しいと思うんですよ。それなのに『綺麗だから』披露する事になる僕の斬魄刀の能力をお見せするのなんて恥ずかしいです。だからさんには披露しません」
言外に、私にだけは完全催眠を掛けないと告げる声。
初めてその事実に気が付いた時、泣きそうな気持ちになったのを、今でもハッキリと思い出せる。
「私のアレは技じゃなくて、その手前の現象なんだけど」
「まぁ、そうみたいですけど。僕は好きなんです、さんの斬魄刀」
どこか無邪気に笑って、そう告げる惣右介君。
一筋縄ではない後輩が、私にだけ見せる優しい顔。
いっそのこと心から騙された状態になってしまえば、事実と現実の板挟みを味合わなくて楽だと思うのはこんな時だ。
惣右介君が作る『虚』がいつか海燕を殺すのだと知っていても、未だ起していない悪事の告発はできないし、彼の『完全催眠』がある限り、告発はしても無意味な事だ。
だからただ普通に、こうして過ごす。
どうしようもないと判っているけど、あまりの歯がゆさに今でも時々泣きたくなるよ。
「それで、今日も私の斬魄刀を見たいの?」
「はい。今から駄目ですか?ちょうど東の空が暮れてきましたし」
中空にある回廊から、瀞霊廷を見下ろしながら、にこやかに話す惣右介君は本当に楽しそうだった。
彼自身の斬魄刀を披露する度に、惣右介君は何故か私の斬魄刀の美しさを見たいと強請る。
その真意はさっぱり解らないけれど、己の斬魄刀を美しいと褒められて悪い気もおきないから、私はいつも彼に応えてきた。
「そうね。丁度良い時間帯だと思う。日が暮れるのはあっという間だし、此処で良いかな?」
「お願いします、さん」
にっこりと笑って言う惣右介君の言葉を聞き終えると、己の斬魄刀を手にする。
ただし斬魄刀の解放はしない。そんな必要もなく出来る事だし、惣右介君もそれは心得ていて、私の側から半歩下がった。
私と私の周囲に起こる、斬魄刀の能力を見るためには、近すぎない方が良い。
一見して漆黒に見える黒金(くろがね)の組み紐を巻いた柄、同じく黒金の鞘に飾りのように結ばれた下緒は鮮やかな瑠璃色で、暮れていく空の下で刻々と色を深めていく己の斬魄刀は、贔屓目かもしれないけど綺麗だと思う。
その柄に手を掛け、ゆるりと抜刀する。
始解はしない。刀身は変わらない。けれど心の内側に在るあの夜空を想い描いていると、その気持ちに呼応するように変わらない刀身から『彼等』の霊力があふれていく。
それは光。
キラキラと、キラキラと。
地上に星々が落ちてきたような。
まるで此処が天空だと錯覚させるような。
大小さまざまな輝きが、私を中心にしてこぼれていく。
「本当に、美しいですね」
惣右介君の感嘆の声は、正直な声音だった。
東の空はすっかり紺色になって、西の空は橙色に染まって、鮮やかな夕陽が溶けるように消えていく途中、薄暗くなった私達の周囲には、きらめく星のような輝き。
我ながら、いつ見てもそれは確かに美しい光景で、惣右介君の言葉に頷き返しつつ、顔が自然と微笑んでしまうのが分かった。
「ありがとう。もうそろそろお終いにするね。さすがに完全に日が暮れた後にコレをやっていると、目立って仕方ないから」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました。また見せてください」
光の名残りがまだ漂う中で、鞘に刀身を戻しながら、惣右介君の言葉に思わず苦笑する。
「また、今度も、惣右介君の斬魄刀を見せてくれないんだ?」
見せてもらっても、困るのだけれど。
そんなに隠すようにされると、時々、無性に見てしまいたくなる。
「先程も言いましたけど、僕の斬魄刀の能力は、さんには披露しませんよ」
「ケチ」
「なんとでも言ってください」
「イジワル」
「すみません」
「……惣右介君、やっぱり謝る気がないんでしょ」
「はい。だから、本気で謝るつもりがなくてすみません、さん」
繰り返す、たわいのない会話は、いつか壊れてしまうものだと知っていても、好きだなぁと思えて。
微笑んだ瞬間、最後の光が、きらめく星のように消えていった。
