現世編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
You wake and know the truth
『覚醒』は、あっけないほど簡単に訪れた。
思考がやけに、クリアになっていく。
『俺』はその変化に、呆然と立ち尽くした。
「、どうしたの?」
「かあさん……」
声をあえぐように出した。あぁ、母さんはたしかに『真咲さん』だ。
母さんの髪は一護や遊子と同じように明るい色だ……俺は親父に似た黒髪で、それは夏梨と同じだった。
そして母さんはいつもにこにこしている……俺の顔立ちは母さんに似たけど、同じく母さんに似ているはずの遊子と違って男なせいか、きつい印象を残す時が多い。
夏梨と遊子の、中間って感じだな。
そう、血のつながりは確かにあるのだ。
だけど今、それだけではないと知ってしまった。
「俺、なぐっちゃったんだ……」
体が自然に、動いてしまって、はじめて訪れた空手教室の対戦相手を、あっさりと。
対戦相手は一護を倒した強い女の子だった。
彼女は……。
「たつき……は、だいじょうぶ?」
「まぁ、名前を覚えたのね。大丈夫、ほら、立ち上がってるでしょう?」
「う、うん……」
良かった。とっさに手加減できていたんだ。何も知らずに殺していたら、後悔するなんてもんじゃない。
「……あ、一護は?」
そう、俺は兄の一護がずっと負け続けているっていう、空手教室の女の子に逢ってみたくて、どれだけ強いのか仕合ってみたくなって、今日、初めてここに連れてきてもらったんだけど……。
……『戦い』が鍵になったのか……。
「一護も大丈夫よ、もう起き上がってるから、一緒に帰りましょうね」
「うん。……かあさん、ありがとう」
ありがとう。
『俺』を此処に、生んでくれて。
その日の夜、黒崎家のほぼ全員が寝静まった頃、俺は起きだして一護と一緒に過ごしている部屋から出て、忍び足で1階に下りた。
「よう、『起きた』のか?」
「親父……やっぱり気付いてたんだな」
1階のリビングにだけ、煌々と灯りをつけて飲んだくれている親父の姿は、どうみても平凡な人間だったけれど、今なら分かる事がある。そういう風に、生まれたばかりの俺を見て、親父にも分かった事があるのだろう。
今日、俺が『覚醒』し、『私』の意識が『起きた』事を察したように。
そんな事を思い、親父が座っているソファに俺も腰掛ける。
「あー……なんつうか、何もかも分かってるわけじゃねぇよ。俺ァ、カミサマじゃねぇしな」
「俺も、どうしてこうなったのか、……こういう風に生まれたのかは、わからないよ」
「そうか」
「うん」
頷いた後、なんて言ったら良いのか分からなくなって沈黙した俺に、カランと氷が鳴る音を響かせながら、ずいっとグラスを差し出す親父の姿があった。
「飲むか?」
「バッ、バカヤロウッ! 魂はともかく身体は未成年だ!!! つーか子どもにウィスキーのロックをすすめるなっ!」
「やっぱ駄目か」
「当たり前だ! バカ親父」
溜め息を吐く、まったく……人が真剣に聞きたい事があるというのに。
いや、確認したい事か。
「なぁ親父、……俺はこのままこの家に居ていいのか?」
「当たり前だろう。むしろ居なくなったら全員で嘆くぞ」
「……」
あぁ、そうか。一護が空手教室に通い始めたんなら、母さんが死んじまう日も近いって事だ。
やっぱり生まれ変わっても、そこに関してだけは、異世界の者だって実感が付きまとって往くのだろう。
そうしてその『運命』を、止める事ができない。
親父の言葉に連想した出来事に、俺は暗い気持ちで苦笑した。
「、なんて顔してんだ。お前が居なくなったら本当に嘆くぞ?何しろウチは愛情一杯だからな!」
「……うん」
止める事ができなくても、慰める事や支える事は、できるって知ってる。
『私』だった時に、知った事を覚えている。
『俺』は、思い出している。
「あとさ……俺の名前、誰が名付けたんだ?」
「浦原喜助」
……もの凄く納得した……。
でも、今更だけど。
「……息子にこの名前つけるの、母さんがよく認めたな……」
「拝み倒したに決まってるだろう!」
勢い良く拝み倒している親父の姿を想像して、思わず笑ってしまう。
深夜の密会は、そんな風に過ぎていった。
翌日の深夜、今度は家の外へと出かける。
行く先は、喜助のところだ。
場所は知らないけど、霊圧をたどって、なんとか行けるだろう。
話したい事が、沢山あるから。
夜空の下で、霊力を込めて、空を翔るように移動する。
「……たぶん、魂は死神のままなんだろうなぁ……」
普通の人間にはありえない速度に、苦笑しながら呟く。
あの千余年で培ったものが、こんなに小さな身体に受け入れられたなんて、驚きだ。
どうしてこうなったのかは、本当に分からなかった。
魂の流れが、誰にも分からないように。
世界の不思議が尽きぬように。
こんな風に『私』が『俺』として……この世界の者として、生まれ変われたその理由は、なにひとつ分からない。
それでも。
「……あぁ、よかった……」
もう一度、逢いに行けるよ……と、私は微笑んだ。
心の中に浮かんだのは、春水と十四郎をはじめに、瀞霊廷に残してきた人々だ。
「人間だからね……現世で死ねば、今度こそ『魂葬』されて逝く事ができるだろ」
次に浮かんだのは、一護をはじめに、今の家族の姿で。
「……そんな簡単には死ねないか……」
泣かすのは、後味が悪すぎると俺は苦笑した。
『私』も『俺』も、どちらも『己』で、どちらの気持ちも、切なくて。
気が付けば、涙を流しながら走っていた。
あぁ、くそっ……止まらねぇ……っ。
どうしようもなくなって、そのまま走り続けた俺は、涙を拭う事もせず、喜助の前に降り立った。
そうしたら、そんな俺を見てとった喜助も、泣き出しそうな顔になる。
「……ひさしぶりっす。さん」
「本当に久し振りだね、喜助。……って、何、泣いてんだよ」
「さんだって泣いてるじゃないですかっ……それに、此処にこんな風に居るって事は、アタシが造り溜めておいた薬、足りなかったって事でしょう?……さん、あれからあちらで死んでしまったんでしょ……」
猫背気味に背を丸めて、絶対に泣かないような男が泣いている。
あちらで死んだ、私のために。
「今は、生きてるよ。私は、俺として」
そう言って見上げる俺も、流れる涙が止まらない。
「それでも悲しいっす……。もう、あの姿のさんには二度とお会いできないじゃないっすか……っ」
「……っ……」
そう、なのだ。
もう一度、会えるとしても、もう俺は、以前の『私』ではなくて。
けど。
「二度と、会えないよりは良いだろ!!!」
叫んだ。
それは、心からの叫びだった。
「今の、俺を、受け入れろよ! ……俺も、受け入れるように、がんばるから……っ」
「……さん……」
女から、男になってしまった事に、少しも戸惑いを感じなかったと言えば嘘になる。
それでも、『もう一度会える』という素晴らしさがあったから、己の足場がひとつ崩れてしまったような不安に、ずっと見てみぬ振りをしてきた。
「そうですね……アタシもその姿に慣れる様にがんばります」
「うん。そうしてくれ」
そういった俺を、喜助はしゃがんでそっと抱き寄せる。
「さんをこんな風に抱きしめる事ができるようになるとは、思いも寄らなかったっす」
「……昔と逆なのな」
真央霊術院に通っていた頃、まだまだ子どもの喜助を抱き寄せた事を思い出す。
「あぁ、懐かしいっすねぇ……あの時は京楽さんと浮竹さんの目つきが凄かったっすよ」
「え?」
嘘だ……ぜんぜん気付いてなかった……。
「今だから言える事っすね。これは」
「マジかよ……」
溜め息を尽きながら、俺も喜助を抱きしめた。
「これからよろしくな」
「……ハイ」
抱きしめた背が、震えているから、もう一度ぎゅっと抱きしめ直した。
そうして、その後、真咲母さんが『殺された』。
俺はその時、あの『卍解すると身体が壊れる体質』を、いまだに引き摺っていないか調べ終えるまでは、迂闊に霊力を使わないようにと喜助に言われて、鬼道が得意なテッサイさんに霊力を封印されていた。
深夜の密会は、喜助の送り迎え付きで継続することにして。
だから、母さんが死んだ時、俺は何もできなかったし、親父も似たようなものだった。
母さんの死は覚悟していたけど、それでもやっぱり、ちょっと泣いて。
それから。
「一護は、まだ?」
仲良くなった、たつきは心配そうに一護の事を聞く。
俺はそれに頷くと、河原で彷徨う一護のとこまで連れて行って、一護の背中を一緒に見守る。
その後は、一護の手を握って、一緒に帰宅する日々が続いた。
それぐらいしか出来なくても、それさえしないのは論外だったから。
力なく手を握られたままの一護が、俺の手をかすかに握り返してくれるようになるまで、ずっと。
思考がやけに、クリアになっていく。
『俺』はその変化に、呆然と立ち尽くした。
「、どうしたの?」
「かあさん……」
声をあえぐように出した。あぁ、母さんはたしかに『真咲さん』だ。
母さんの髪は一護や遊子と同じように明るい色だ……俺は親父に似た黒髪で、それは夏梨と同じだった。
そして母さんはいつもにこにこしている……俺の顔立ちは母さんに似たけど、同じく母さんに似ているはずの遊子と違って男なせいか、きつい印象を残す時が多い。
夏梨と遊子の、中間って感じだな。
そう、血のつながりは確かにあるのだ。
だけど今、それだけではないと知ってしまった。
「俺、なぐっちゃったんだ……」
体が自然に、動いてしまって、はじめて訪れた空手教室の対戦相手を、あっさりと。
対戦相手は一護を倒した強い女の子だった。
彼女は……。
「たつき……は、だいじょうぶ?」
「まぁ、名前を覚えたのね。大丈夫、ほら、立ち上がってるでしょう?」
「う、うん……」
良かった。とっさに手加減できていたんだ。何も知らずに殺していたら、後悔するなんてもんじゃない。
「……あ、一護は?」
そう、俺は兄の一護がずっと負け続けているっていう、空手教室の女の子に逢ってみたくて、どれだけ強いのか仕合ってみたくなって、今日、初めてここに連れてきてもらったんだけど……。
……『戦い』が鍵になったのか……。
「一護も大丈夫よ、もう起き上がってるから、一緒に帰りましょうね」
「うん。……かあさん、ありがとう」
ありがとう。
『俺』を此処に、生んでくれて。
その日の夜、黒崎家のほぼ全員が寝静まった頃、俺は起きだして一護と一緒に過ごしている部屋から出て、忍び足で1階に下りた。
「よう、『起きた』のか?」
「親父……やっぱり気付いてたんだな」
1階のリビングにだけ、煌々と灯りをつけて飲んだくれている親父の姿は、どうみても平凡な人間だったけれど、今なら分かる事がある。そういう風に、生まれたばかりの俺を見て、親父にも分かった事があるのだろう。
今日、俺が『覚醒』し、『私』の意識が『起きた』事を察したように。
そんな事を思い、親父が座っているソファに俺も腰掛ける。
「あー……なんつうか、何もかも分かってるわけじゃねぇよ。俺ァ、カミサマじゃねぇしな」
「俺も、どうしてこうなったのか、……こういう風に生まれたのかは、わからないよ」
「そうか」
「うん」
頷いた後、なんて言ったら良いのか分からなくなって沈黙した俺に、カランと氷が鳴る音を響かせながら、ずいっとグラスを差し出す親父の姿があった。
「飲むか?」
「バッ、バカヤロウッ! 魂はともかく身体は未成年だ!!! つーか子どもにウィスキーのロックをすすめるなっ!」
「やっぱ駄目か」
「当たり前だ! バカ親父」
溜め息を吐く、まったく……人が真剣に聞きたい事があるというのに。
いや、確認したい事か。
「なぁ親父、……俺はこのままこの家に居ていいのか?」
「当たり前だろう。むしろ居なくなったら全員で嘆くぞ」
「……」
あぁ、そうか。一護が空手教室に通い始めたんなら、母さんが死んじまう日も近いって事だ。
やっぱり生まれ変わっても、そこに関してだけは、異世界の者だって実感が付きまとって往くのだろう。
そうしてその『運命』を、止める事ができない。
親父の言葉に連想した出来事に、俺は暗い気持ちで苦笑した。
「、なんて顔してんだ。お前が居なくなったら本当に嘆くぞ?何しろウチは愛情一杯だからな!」
「……うん」
止める事ができなくても、慰める事や支える事は、できるって知ってる。
『私』だった時に、知った事を覚えている。
『俺』は、思い出している。
「あとさ……俺の名前、誰が名付けたんだ?」
「浦原喜助」
……もの凄く納得した……。
でも、今更だけど。
「……息子にこの名前つけるの、母さんがよく認めたな……」
「拝み倒したに決まってるだろう!」
勢い良く拝み倒している親父の姿を想像して、思わず笑ってしまう。
深夜の密会は、そんな風に過ぎていった。
翌日の深夜、今度は家の外へと出かける。
行く先は、喜助のところだ。
場所は知らないけど、霊圧をたどって、なんとか行けるだろう。
話したい事が、沢山あるから。
夜空の下で、霊力を込めて、空を翔るように移動する。
「……たぶん、魂は死神のままなんだろうなぁ……」
普通の人間にはありえない速度に、苦笑しながら呟く。
あの千余年で培ったものが、こんなに小さな身体に受け入れられたなんて、驚きだ。
どうしてこうなったのかは、本当に分からなかった。
魂の流れが、誰にも分からないように。
世界の不思議が尽きぬように。
こんな風に『私』が『俺』として……この世界の者として、生まれ変われたその理由は、なにひとつ分からない。
それでも。
「……あぁ、よかった……」
もう一度、逢いに行けるよ……と、私は微笑んだ。
心の中に浮かんだのは、春水と十四郎をはじめに、瀞霊廷に残してきた人々だ。
「人間だからね……現世で死ねば、今度こそ『魂葬』されて逝く事ができるだろ」
次に浮かんだのは、一護をはじめに、今の家族の姿で。
「……そんな簡単には死ねないか……」
泣かすのは、後味が悪すぎると俺は苦笑した。
『私』も『俺』も、どちらも『己』で、どちらの気持ちも、切なくて。
気が付けば、涙を流しながら走っていた。
あぁ、くそっ……止まらねぇ……っ。
どうしようもなくなって、そのまま走り続けた俺は、涙を拭う事もせず、喜助の前に降り立った。
そうしたら、そんな俺を見てとった喜助も、泣き出しそうな顔になる。
「……ひさしぶりっす。さん」
「本当に久し振りだね、喜助。……って、何、泣いてんだよ」
「さんだって泣いてるじゃないですかっ……それに、此処にこんな風に居るって事は、アタシが造り溜めておいた薬、足りなかったって事でしょう?……さん、あれからあちらで死んでしまったんでしょ……」
猫背気味に背を丸めて、絶対に泣かないような男が泣いている。
あちらで死んだ、私のために。
「今は、生きてるよ。私は、俺として」
そう言って見上げる俺も、流れる涙が止まらない。
「それでも悲しいっす……。もう、あの姿のさんには二度とお会いできないじゃないっすか……っ」
「……っ……」
そう、なのだ。
もう一度、会えるとしても、もう俺は、以前の『私』ではなくて。
けど。
「二度と、会えないよりは良いだろ!!!」
叫んだ。
それは、心からの叫びだった。
「今の、俺を、受け入れろよ! ……俺も、受け入れるように、がんばるから……っ」
「……さん……」
女から、男になってしまった事に、少しも戸惑いを感じなかったと言えば嘘になる。
それでも、『もう一度会える』という素晴らしさがあったから、己の足場がひとつ崩れてしまったような不安に、ずっと見てみぬ振りをしてきた。
「そうですね……アタシもその姿に慣れる様にがんばります」
「うん。そうしてくれ」
そういった俺を、喜助はしゃがんでそっと抱き寄せる。
「さんをこんな風に抱きしめる事ができるようになるとは、思いも寄らなかったっす」
「……昔と逆なのな」
真央霊術院に通っていた頃、まだまだ子どもの喜助を抱き寄せた事を思い出す。
「あぁ、懐かしいっすねぇ……あの時は京楽さんと浮竹さんの目つきが凄かったっすよ」
「え?」
嘘だ……ぜんぜん気付いてなかった……。
「今だから言える事っすね。これは」
「マジかよ……」
溜め息を尽きながら、俺も喜助を抱きしめた。
「これからよろしくな」
「……ハイ」
抱きしめた背が、震えているから、もう一度ぎゅっと抱きしめ直した。
そうして、その後、真咲母さんが『殺された』。
俺はその時、あの『卍解すると身体が壊れる体質』を、いまだに引き摺っていないか調べ終えるまでは、迂闊に霊力を使わないようにと喜助に言われて、鬼道が得意なテッサイさんに霊力を封印されていた。
深夜の密会は、喜助の送り迎え付きで継続することにして。
だから、母さんが死んだ時、俺は何もできなかったし、親父も似たようなものだった。
母さんの死は覚悟していたけど、それでもやっぱり、ちょっと泣いて。
それから。
「一護は、まだ?」
仲良くなった、たつきは心配そうに一護の事を聞く。
俺はそれに頷くと、河原で彷徨う一護のとこまで連れて行って、一護の背中を一緒に見守る。
その後は、一護の手を握って、一緒に帰宅する日々が続いた。
それぐらいしか出来なくても、それさえしないのは論外だったから。
力なく手を握られたままの一護が、俺の手をかすかに握り返してくれるようになるまで、ずっと。
