番外編:絵巻 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ

邂逅編 視点:浮竹十四郎
無事で良かったと言われて抱きつかれた瞬間、初めてこんな風に触れ合う事に戸惑って、呆然と立ち竦んでしまった。
背丈は同じくらいでも、少し触れただけで俺みたいに骨張った所なんてなくて、どこもかしこも柔らかい事が伝わってきて、をぎゅっと抱きしめ返したらその身体を壊してしまうんじゃないかと思えて恐ろしくなった。
けれどいつまでも立ち竦むだけで何も返さないままなのも嫌だと思って。
「それは俺達の台詞だ」
溜め息に混ぜて言いながら、少しだけを抱き返す。
横を見遣れば京楽が俺と違って何も言わず、ただ優しい仕種でしっかりとを抱きしめ返していて、溜め息はもっと深くなった。
つい先刻の情景を思い出す。
あまりにも早い虚の動き、手も足も出せない俺達を守るように、鮮やかに舞うように応戦する鳩羽の姿、京楽と並び立ちながら見愡れたけれど、同時に、その横に在るのが先輩なのが悔しくて舌打ちをした。
「悔しいのはお前さんだけじゃないよ」
京楽がそう言ってくれたお陰で、少しばかり自制を取り戻す。
だけれど。
の袖や布が引き裂かれた瞬間、思わず一歩を踏み出す。そんな俺を京楽が腕を掴んで引き留めて、どうして止めると睨みあげれば、見た事がない真剣な表情で、聞いた事もない静かな声が告げた事。
「を信じてあげて」
瞬間、赤面する思いだった。あんなにも剣を交えてきたのに、俺はの力ををまったく信じていなかったのかと。
俺が足を止めたのを見て取って、京楽は視線をへと戻す。ふと、静かだとばかり思っていた瞳の奥に、ぞっとするほど物騒な光があるのに気が付いて戦慄する。
「浮竹は、優しいし……助けようとするのも解るよ。でも、ボク達が出て行っても足手纏いだ。早さならが一番だもの……ボク達は、ボク達の力で出来る事しか出来ないんだよ」
身の内に潜む獣を無理矢理に押さえ込むような気配が、京楽から伝わってくる。
俺が飛び出そうとするより前に、ひょっとしたらが先輩と共に先手で出ると決まった時から、こいつはの前に出て行きたかったんじゃないかと思い至る。ずっと守りたくて、けれど力が足りないと己を律して。
それは、なんて強い心だろう。
同時に、なんて不器用な心だろう。
色んな事に聡過ぎて、がんじがらめになっている。
「……京楽、お前器用貧乏だろう」
「…………かなぁ」
「そうだとも」
「……ちょっと、それは否定したいなぁ」
言葉を交わしながら、己を律して、虚の動きが鈍くなる瞬間を待っていた。
戦い終えれば、京楽は何も言わずにただを抱きしめるだけで。
は俺達の無事を喜ぶばかりで、そんな京楽の心中には気が付くはずもない。
俺は虚を倒し、この局面を乗り切った高揚感に満たされながら、やっぱり京楽は器用貧乏だよなぁと溜め息を吐いた。
温もりを伝えあうような触れ合いに戸惑わないくせに、肝心な心を笑いながら隠す術に長けているなんて、タチが悪いぞ。
あぁ、だけれど。
京楽の言葉と、
鳩羽の力を、
信じて良かった。
そうして俺は、笑いながら、今度こそしっかりと、をやわらかく抱きしめ返していた。
