邂逅編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
ringing 01
入学式の日に張り出される一回生のクラス分け表の中で、1学年1組(特進学級)の欄に『浮竹十四郎』と『京楽春水』の文字を見つけた瞬間、私は内心で盛大に喝采をあげた。
やっぱり春水と浮竹さんって同期なんだ!
付き合い長そうだったから、そうじゃないかなって予想していたけど……っと。
「私の名前は何処かな?」
思わず我が事を忘れてしまいそうだった私に、一緒に来ていた春水がのんびりと話し掛けた。
「は、ボクと同じクラスだね」
そうして指差された箇所には確かに私の名があった。
「嘘?! 私も特進学級?!!」
「……あのね、未だにボクと剣術で引き分けに持ち込むくせに、どうして驚くの」
「いや、だって……私、鬼道の方はぜんぜん出来ないじゃない」
この頃になってようやく、霊力の素養っぽいのが出てきたけど、言霊を駆使する鬼道は何一つモノに出来ていないのだ。
「そうだけどさ。の霊圧で特進学級以外って言うのは、ちょっと無理だと思うよ?」
「……そんな事を言われても、どんな霊圧になってるのか、私は良くわからないんだもの」
あんまり意味がない反論だと思いつつ、言わずには居られなかった。
「に自覚がなくても、こればかりは仕方ないよ。それともボクと一緒は嫌?」
うっ。
「……春水と一緒なのは、嬉しいのよ。……けど」
特進学級になるのは嫌だった。
エリートって柄じゃないのになぁ……。
私はため息を吐きながらうつむいた。
うつむいた時に、入学前にうなじが見えるほどに切りそろえた髪が、さらりと首筋に触れた。
髪の毛を男の子みたいに切り揃えようと思ったのは、諸事情で私の制服の色が男子と同じになると知ってからだ。
私の体型は一応、女性として出るトコは出ているので、本当は女子生徒ですって事は隠しようがない。だけど、色のせいで一見して男子生徒に見えるのだから、それに合わせて髪を短くしておけば、少しでも、周囲に馴染めるかもしれないと思って。
ただ、さすがは『昔』と言うべきか、髪を短く切りそろえた私の姿を見た春水とそのご家族は、物凄く嘆いた。
髪は女の命らしい……。
私が読んでたあの時代までに、髪に対する意識改革があるんだろうなぁ……。
春水のお母さんが涙ぐんだ瞳のまま私を抱き締める段階になって、やっと事体が飲み込めた私は、しまった……と思ったが既に切ってしまったものはどうにもできない。
ひたすら謝るしかなかった。
「?」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃった」
入学するまでの悲喜こもごもに思いを馳せ過ぎてしまった。
「もうそろそろ入学式みたいだよ」
「そっか。なら移動しよう?」
「んー……。ボク、サボって良い?」
「……春水」
「いや、だってさぁ……」
「……まぁ、確かに、視線が痛いものね」
先ほどから、春水の事をちらちらと見遣っている生徒が居るのだ。
しかも、大勢。
春水と一緒に居る私にもついでに視線を向ける人達が居て、非常に居心地が悪い。
貴族同士の付き合いで、春水の『御尊顔だけ拝謁』して、春水を知っている人達が居るとは聞いていた。その時は着飾った夜一さんの姿を見上げていた砕蜂の姿を読んだ事を思い出して、そういうものかと思ったけれど。
「……なんか、予想よりも凄くてさぁ……」
その気持ちが良く分かってしまう私は、苦笑して春水を見上げた。
「仕方ないなぁ……今日だけよ? 明日からの授業はちゃんと出て」
「うん。じゃ、そう言う事で……ごめんね」
そう言った春水が私から離れると、たくさんの視線も春水にくっついていく形で私から離れていった。
貴族って本当に大変なのね、と溜め息がでてきた。
それから私は、ある可能性にハタと気が付いて青ざめる。
春水、サボってる間に女の人の所に行ってたらどうしよう?!
入学式の後には、寮に入る事になっているのに、白粉の香りをつけて帰ってきたら洒落にならないよ!
私は慌てて春水が向かった先に視線を送った。
その注意だけでも伝えなければ! と。
そうしたら、春水が向かう方角から、真っ白い髪の男子生徒がひとり、歩いて来るのを見てとり、息を飲んだ。
浮竹さん……だ。
そう、今から入学式なんだから、居るのは当たり前なのに。
「……ぅ、わ…………」
思わず小声で呻いた。
なんか、私、凄い瞬間を見ているような気がする。
一歩一歩、春水と浮竹さんの距離が近付いていくけれど、まだふたりは知り合ってもいない訳で、そのまま何事もないようにすれ違っていこうとしている。
同期で、同じくニ刀一対で、この真央霊術院から出た始めての隊長格になる男の子ふたりが、こんなに身近に、本人達も気が付いていない時期に、『在る』という事。
私はそれに、目を奪われてしまった。
それと同時に、ぞくりと背を走るのは期待感だ。
この世界に来てから始めた剣術は、日ごとに楽しくなっている。良いご指導をいただけて、生前の私には想像もつかなかった体捌きが出来るようになった。
それだけでも楽しいのに、その相手に春水だけでなく浮竹さんも望める環境に居るのだ。
……どれだけ、楽しくなるのだろう……。
気が付けば、春水の姿を完全に見送ってしまった。
そして、浮竹さんが近付いてくる。
髪は雪みたいに真っ白、凛々しい眉は墨をはいたように真黒、その下にある瞳は春に芽吹く木の葉のような萌黄色で、肌の色は私より白く(たぶん、病気のせいだろう)全体的に綺麗な色彩の人だった。背は春水よりもぐっと低くて私とたいして変わらない、これから伸びるのだろう。
そして私の側まで浮竹さんが来ると、その瞳が大きいというか……私を見てビックリしたように見開いているのに気が付く。
……しまった。
凝視してたのがバレたかも?!
「……すまないが」
「は、はい」
私にかけたその声は、声変わりの時期特有の、ざらついた響きをしている。
目線は私より少し上なだけ……やっぱり私とほぼ同じ身長だ。
そんな風に思いながらも、内心どきどきしていた。
第一印象から悪印象をあたえてちゃ駄目じゃない!
でも、つい見てしまったのよね……。
「俺は浮竹十四郎。それであの……、男子の制服を着ているけど女子だよな?」
あ! そうか! それでかぁ……。
良かった、目を凝らしていたのがバレた訳ではないのね。
ホッとして落ち着く事のできた私は、笑って受け答えする。
「私は、女子だよ。この制服はね、私にちょっと事情があって、どうしてもこれでなくては駄目だと霊術院側から指示されたの」
「そうかそれで……。不躾に見てしまって悪かった」
浮竹さんは深々と、礼儀正しく謝罪してくれた。
さ、さっき春水を見遣ってた人達に、この言葉を聞かせたい!
私も凝視してた訳だから、あの人達の事を一方的にひどくは言えないけど……でも、それ故にしみじみと浮竹さんの心遣いに感動してしまう。
まだ身体はちっちゃくても、充分にその心は男前で。
なんだか、すごい。
「制服の事は必ず誰かに言われるだろうなって思ってたから、気にしないよ。えっと……」
目の前の浮竹さんは、もうこの頃から『浮竹さん』な雰囲気だったから、思わず。
「その、浮竹さんって呼んだ方が良い?」
と尋ねた。
そんな私に浮竹さんは屈託なく笑って言う。
「十四郎で良いよ。同じ一回生だろう? 俺もって呼ぶから」
「わかった。十四郎ね」
そういえば私、春水の事も呼び捨てだし。
軽く納得した後、お互いの組が同じだと確認しあった私達は、なんとなく2人一緒に連れ立って入学式の会場まで歩いて行った。
入学式も、担任の先生(男性だったから春水がっかりしそう)のご挨拶も、とりあえず滞りなく過ごせたと思う。
試験を受けた中で成績が一番良かったという理由で、十四郎が新入生総代として挨拶をした時、十四郎の態度は堂々としたものだった。
けど、緊張のせいかさっきより顔色が白く見えて、私はいつ十四郎が血を吐いて倒れるのかとハラハラし……幸いにして何事もなく……その挨拶を終えた後、何もしていない私の方が冷汗をかいていた事に気が付いて苦笑する。
入学式の後のクラスメイトが一堂に集まる場では、担任の先生のご挨拶がはじまり、その中でわざわざ『このクラスに居るさんは、諸事情で男子寮に入寮する必要があるため、制服もそれに倣っています。皆さんそのつもりでいるように』と説明してくれた。
私がこれから周囲に説明する手間を、省略してくれたのだろう。
ありがたい……。
気遣いに感謝して、ぺこりと軽く礼をしておく。
私の制服の色に驚いた顔になるクラスメイトは、十四郎だけではなかったから。
ただ、そんな説明をされた私を見てとり、知ったか振ったように頷いた男子クラスメイトが数人居た。
その人達は貴族階級でも中流の上くらいに見受けられる。
持ち物にお金かけてそうだし……『京楽』の事情を噂として仕入れる事ができる、そういうツテのある人達だろう。
まさかと思うけど、あの嫌な『お土産』持参した人達の息子さん……?
うわー……、頭痛いかも……。
とりあえず、それは置いておくとして、クラスメイトの3分の2が男子で、残りが女子だと確認する。
ただし学年を平均すると、男女数は半々。
霊力にも男女格差があるのかと思った、クラスは成績順で振り分けていると先生は言うし。
隣のクラス……つまりこの特進学級の次に成績の良いクラスでは、逆に女子の方が圧倒的に多いらしいし。
けれど、先生が続けて話すには、霊力が低いほど、純粋な腕力の差が出やすいため、霊力の伸びきっていない一回生の時には、特進学級に男子の数が多いのは毎年の事だと言う。
つまり、今の時点で特進学級に居ても、うかうかしていると霊力の伸びた下のクラスの人に、あっさりと成績を追い抜かれて特進学級以下に行く可能性があるという事。
その説明を聞き終えると、室内の空気はざわりと揺れた。
この学級に入れた事で、ちょっと得意になってた気持ちがあった所に、思いっきり水を指してきた言葉だったからだ。
私は逆に、特進学級じゃなくなる可能性があると知ってホッとしたくらいなんだけど……。
そんな考えは私くらいだろう。
ふと、斜め前の席の十四郎を見遣ると、また顔色が真っ白になっている。
……あ、そうか……たしかご家族を養うんだっけ……?
それを目標としているのなら、先生の説明は、その心に重くのしかかったはずだ。
体の事もあるだろうし……。
春水とは別の意味で、十四郎も大変そうだなぁ……。
私はふたりの男の子が歩もうとする道を思って、こっそりと溜め息を吐いた。
先生の挨拶というか説明も終わった後は、入寮するのみだ。
でも私ひとりで行くのは、さすがに度胸がいるので、春水が私の所に来るまで待つ事にした。
約束はなにひとつなくても。
春水なら、私の霊圧を探れるよねって。
そんな期待感があったから。
校舎を出て、寮までの道なりの中、ひとりでぼうっとしてみる。
「、大丈夫か?」
「……十四郎? あ、この道を通るって事は十四郎も寮なんだね。……大丈夫って何が?」
「いや、ひとりで居るから……男子寮に入寮するのが辛いのかと思って。俺と一緒に行くか?」
「そっか、心配してくれたんだね……ありがとう。ツライって訳じゃないんだけど、さすがにひとりで行くのは気が引けて……一緒の寮室になる予定の友達を待ってるの」
「え? ……その、以外にも女子生徒で男子寮に?」
春水が、女子生徒?
一瞬、そんなとんでもない一文が脳内に流れて、私は思いっきり吹き出しそうになった。
あり得ないから! あの体格でそれはないから!!!
「そうじゃないの。その、友達は男子なの」
なんとか笑いを堪えて説明した。
「……男女で一緒の寮室?」
「うん」
十四郎は私の返事に思いっきり眉間に皺を寄せる。
あー……そっか、そういう所、何か生真面目そうだもんね、十四郎は。
私はむしろ、入学するまでの春水との共同生活で、春水と一緒だと言う事に慣れきってしまったので、ひとりになったら淋しいだけだろうなぁと思う。
「十四郎が心配するような事は何もないよ。春水は優しいし、恋人な付き合いをする人達は他にちゃんと居るだろうしね」
「……世間一般ってそんなものなのか?」
十四郎が、首を傾げた時だった。
「そんなものじゃないけど、ボク達の場合はそれで良いんだよ」
「!?」
「春水?!」
い、いつの間に後ろに?!
やっぱり私って霊圧の感知とか苦手なんだろうなぁ……。まったく気がつかなかった。
「、ごめんね。待たせたみたいだ。……君は誰?」
「春水、人に名乗るなら己から」
思わず指導してしまう。
だって、あのふたりの出会いなんだもの。どちらにも良い印象を持って欲しくて、つい……。
「あ、そうか。ごめんよ。……ボクは京楽春水」
「俺は浮竹十四郎。これからよろしく」
春水がへらりと笑って挨拶すると、十四郎はにこりと笑って返した。
その十四郎の笑みには当然だけど、あの『お土産』を差し出してきた人達特有の媚びなどなくて、ただ普通の……同期生としての善意みたいなものだけがあって……春水にもそれが伝わったのだろう、一瞬、その瞳を瞬いた。
『家名』を名乗る前に、躊躇する気持ちとか。
そういうのを、飛び越えてきてくれる人。
……春水、それがわかる?
私は今、凄く嬉しい。
あぁ、やっとふたりが出会えたんだなって思ったら、なんだかちょっと、目頭が熱くなった。
やっぱり春水と浮竹さんって同期なんだ!
付き合い長そうだったから、そうじゃないかなって予想していたけど……っと。
「私の名前は何処かな?」
思わず我が事を忘れてしまいそうだった私に、一緒に来ていた春水がのんびりと話し掛けた。
「は、ボクと同じクラスだね」
そうして指差された箇所には確かに私の名があった。
「嘘?! 私も特進学級?!!」
「……あのね、未だにボクと剣術で引き分けに持ち込むくせに、どうして驚くの」
「いや、だって……私、鬼道の方はぜんぜん出来ないじゃない」
この頃になってようやく、霊力の素養っぽいのが出てきたけど、言霊を駆使する鬼道は何一つモノに出来ていないのだ。
「そうだけどさ。の霊圧で特進学級以外って言うのは、ちょっと無理だと思うよ?」
「……そんな事を言われても、どんな霊圧になってるのか、私は良くわからないんだもの」
あんまり意味がない反論だと思いつつ、言わずには居られなかった。
「に自覚がなくても、こればかりは仕方ないよ。それともボクと一緒は嫌?」
うっ。
「……春水と一緒なのは、嬉しいのよ。……けど」
特進学級になるのは嫌だった。
エリートって柄じゃないのになぁ……。
私はため息を吐きながらうつむいた。
うつむいた時に、入学前にうなじが見えるほどに切りそろえた髪が、さらりと首筋に触れた。
髪の毛を男の子みたいに切り揃えようと思ったのは、諸事情で私の制服の色が男子と同じになると知ってからだ。
私の体型は一応、女性として出るトコは出ているので、本当は女子生徒ですって事は隠しようがない。だけど、色のせいで一見して男子生徒に見えるのだから、それに合わせて髪を短くしておけば、少しでも、周囲に馴染めるかもしれないと思って。
ただ、さすがは『昔』と言うべきか、髪を短く切りそろえた私の姿を見た春水とそのご家族は、物凄く嘆いた。
髪は女の命らしい……。
私が読んでたあの時代までに、髪に対する意識改革があるんだろうなぁ……。
春水のお母さんが涙ぐんだ瞳のまま私を抱き締める段階になって、やっと事体が飲み込めた私は、しまった……と思ったが既に切ってしまったものはどうにもできない。
ひたすら謝るしかなかった。
「?」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃった」
入学するまでの悲喜こもごもに思いを馳せ過ぎてしまった。
「もうそろそろ入学式みたいだよ」
「そっか。なら移動しよう?」
「んー……。ボク、サボって良い?」
「……春水」
「いや、だってさぁ……」
「……まぁ、確かに、視線が痛いものね」
先ほどから、春水の事をちらちらと見遣っている生徒が居るのだ。
しかも、大勢。
春水と一緒に居る私にもついでに視線を向ける人達が居て、非常に居心地が悪い。
貴族同士の付き合いで、春水の『御尊顔だけ拝謁』して、春水を知っている人達が居るとは聞いていた。その時は着飾った夜一さんの姿を見上げていた砕蜂の姿を読んだ事を思い出して、そういうものかと思ったけれど。
「……なんか、予想よりも凄くてさぁ……」
その気持ちが良く分かってしまう私は、苦笑して春水を見上げた。
「仕方ないなぁ……今日だけよ? 明日からの授業はちゃんと出て」
「うん。じゃ、そう言う事で……ごめんね」
そう言った春水が私から離れると、たくさんの視線も春水にくっついていく形で私から離れていった。
貴族って本当に大変なのね、と溜め息がでてきた。
それから私は、ある可能性にハタと気が付いて青ざめる。
春水、サボってる間に女の人の所に行ってたらどうしよう?!
入学式の後には、寮に入る事になっているのに、白粉の香りをつけて帰ってきたら洒落にならないよ!
私は慌てて春水が向かった先に視線を送った。
その注意だけでも伝えなければ! と。
そうしたら、春水が向かう方角から、真っ白い髪の男子生徒がひとり、歩いて来るのを見てとり、息を飲んだ。
浮竹さん……だ。
そう、今から入学式なんだから、居るのは当たり前なのに。
「……ぅ、わ…………」
思わず小声で呻いた。
なんか、私、凄い瞬間を見ているような気がする。
一歩一歩、春水と浮竹さんの距離が近付いていくけれど、まだふたりは知り合ってもいない訳で、そのまま何事もないようにすれ違っていこうとしている。
同期で、同じくニ刀一対で、この真央霊術院から出た始めての隊長格になる男の子ふたりが、こんなに身近に、本人達も気が付いていない時期に、『在る』という事。
私はそれに、目を奪われてしまった。
それと同時に、ぞくりと背を走るのは期待感だ。
この世界に来てから始めた剣術は、日ごとに楽しくなっている。良いご指導をいただけて、生前の私には想像もつかなかった体捌きが出来るようになった。
それだけでも楽しいのに、その相手に春水だけでなく浮竹さんも望める環境に居るのだ。
……どれだけ、楽しくなるのだろう……。
気が付けば、春水の姿を完全に見送ってしまった。
そして、浮竹さんが近付いてくる。
髪は雪みたいに真っ白、凛々しい眉は墨をはいたように真黒、その下にある瞳は春に芽吹く木の葉のような萌黄色で、肌の色は私より白く(たぶん、病気のせいだろう)全体的に綺麗な色彩の人だった。背は春水よりもぐっと低くて私とたいして変わらない、これから伸びるのだろう。
そして私の側まで浮竹さんが来ると、その瞳が大きいというか……私を見てビックリしたように見開いているのに気が付く。
……しまった。
凝視してたのがバレたかも?!
「……すまないが」
「は、はい」
私にかけたその声は、声変わりの時期特有の、ざらついた響きをしている。
目線は私より少し上なだけ……やっぱり私とほぼ同じ身長だ。
そんな風に思いながらも、内心どきどきしていた。
第一印象から悪印象をあたえてちゃ駄目じゃない!
でも、つい見てしまったのよね……。
「俺は浮竹十四郎。それであの……、男子の制服を着ているけど女子だよな?」
あ! そうか! それでかぁ……。
良かった、目を凝らしていたのがバレた訳ではないのね。
ホッとして落ち着く事のできた私は、笑って受け答えする。
「私は、女子だよ。この制服はね、私にちょっと事情があって、どうしてもこれでなくては駄目だと霊術院側から指示されたの」
「そうかそれで……。不躾に見てしまって悪かった」
浮竹さんは深々と、礼儀正しく謝罪してくれた。
さ、さっき春水を見遣ってた人達に、この言葉を聞かせたい!
私も凝視してた訳だから、あの人達の事を一方的にひどくは言えないけど……でも、それ故にしみじみと浮竹さんの心遣いに感動してしまう。
まだ身体はちっちゃくても、充分にその心は男前で。
なんだか、すごい。
「制服の事は必ず誰かに言われるだろうなって思ってたから、気にしないよ。えっと……」
目の前の浮竹さんは、もうこの頃から『浮竹さん』な雰囲気だったから、思わず。
「その、浮竹さんって呼んだ方が良い?」
と尋ねた。
そんな私に浮竹さんは屈託なく笑って言う。
「十四郎で良いよ。同じ一回生だろう? 俺もって呼ぶから」
「わかった。十四郎ね」
そういえば私、春水の事も呼び捨てだし。
軽く納得した後、お互いの組が同じだと確認しあった私達は、なんとなく2人一緒に連れ立って入学式の会場まで歩いて行った。
入学式も、担任の先生(男性だったから春水がっかりしそう)のご挨拶も、とりあえず滞りなく過ごせたと思う。
試験を受けた中で成績が一番良かったという理由で、十四郎が新入生総代として挨拶をした時、十四郎の態度は堂々としたものだった。
けど、緊張のせいかさっきより顔色が白く見えて、私はいつ十四郎が血を吐いて倒れるのかとハラハラし……幸いにして何事もなく……その挨拶を終えた後、何もしていない私の方が冷汗をかいていた事に気が付いて苦笑する。
入学式の後のクラスメイトが一堂に集まる場では、担任の先生のご挨拶がはじまり、その中でわざわざ『このクラスに居るさんは、諸事情で男子寮に入寮する必要があるため、制服もそれに倣っています。皆さんそのつもりでいるように』と説明してくれた。
私がこれから周囲に説明する手間を、省略してくれたのだろう。
ありがたい……。
気遣いに感謝して、ぺこりと軽く礼をしておく。
私の制服の色に驚いた顔になるクラスメイトは、十四郎だけではなかったから。
ただ、そんな説明をされた私を見てとり、知ったか振ったように頷いた男子クラスメイトが数人居た。
その人達は貴族階級でも中流の上くらいに見受けられる。
持ち物にお金かけてそうだし……『京楽』の事情を噂として仕入れる事ができる、そういうツテのある人達だろう。
まさかと思うけど、あの嫌な『お土産』持参した人達の息子さん……?
うわー……、頭痛いかも……。
とりあえず、それは置いておくとして、クラスメイトの3分の2が男子で、残りが女子だと確認する。
ただし学年を平均すると、男女数は半々。
霊力にも男女格差があるのかと思った、クラスは成績順で振り分けていると先生は言うし。
隣のクラス……つまりこの特進学級の次に成績の良いクラスでは、逆に女子の方が圧倒的に多いらしいし。
けれど、先生が続けて話すには、霊力が低いほど、純粋な腕力の差が出やすいため、霊力の伸びきっていない一回生の時には、特進学級に男子の数が多いのは毎年の事だと言う。
つまり、今の時点で特進学級に居ても、うかうかしていると霊力の伸びた下のクラスの人に、あっさりと成績を追い抜かれて特進学級以下に行く可能性があるという事。
その説明を聞き終えると、室内の空気はざわりと揺れた。
この学級に入れた事で、ちょっと得意になってた気持ちがあった所に、思いっきり水を指してきた言葉だったからだ。
私は逆に、特進学級じゃなくなる可能性があると知ってホッとしたくらいなんだけど……。
そんな考えは私くらいだろう。
ふと、斜め前の席の十四郎を見遣ると、また顔色が真っ白になっている。
……あ、そうか……たしかご家族を養うんだっけ……?
それを目標としているのなら、先生の説明は、その心に重くのしかかったはずだ。
体の事もあるだろうし……。
春水とは別の意味で、十四郎も大変そうだなぁ……。
私はふたりの男の子が歩もうとする道を思って、こっそりと溜め息を吐いた。
先生の挨拶というか説明も終わった後は、入寮するのみだ。
でも私ひとりで行くのは、さすがに度胸がいるので、春水が私の所に来るまで待つ事にした。
約束はなにひとつなくても。
春水なら、私の霊圧を探れるよねって。
そんな期待感があったから。
校舎を出て、寮までの道なりの中、ひとりでぼうっとしてみる。
「、大丈夫か?」
「……十四郎? あ、この道を通るって事は十四郎も寮なんだね。……大丈夫って何が?」
「いや、ひとりで居るから……男子寮に入寮するのが辛いのかと思って。俺と一緒に行くか?」
「そっか、心配してくれたんだね……ありがとう。ツライって訳じゃないんだけど、さすがにひとりで行くのは気が引けて……一緒の寮室になる予定の友達を待ってるの」
「え? ……その、以外にも女子生徒で男子寮に?」
春水が、女子生徒?
一瞬、そんなとんでもない一文が脳内に流れて、私は思いっきり吹き出しそうになった。
あり得ないから! あの体格でそれはないから!!!
「そうじゃないの。その、友達は男子なの」
なんとか笑いを堪えて説明した。
「……男女で一緒の寮室?」
「うん」
十四郎は私の返事に思いっきり眉間に皺を寄せる。
あー……そっか、そういう所、何か生真面目そうだもんね、十四郎は。
私はむしろ、入学するまでの春水との共同生活で、春水と一緒だと言う事に慣れきってしまったので、ひとりになったら淋しいだけだろうなぁと思う。
「十四郎が心配するような事は何もないよ。春水は優しいし、恋人な付き合いをする人達は他にちゃんと居るだろうしね」
「……世間一般ってそんなものなのか?」
十四郎が、首を傾げた時だった。
「そんなものじゃないけど、ボク達の場合はそれで良いんだよ」
「!?」
「春水?!」
い、いつの間に後ろに?!
やっぱり私って霊圧の感知とか苦手なんだろうなぁ……。まったく気がつかなかった。
「、ごめんね。待たせたみたいだ。……君は誰?」
「春水、人に名乗るなら己から」
思わず指導してしまう。
だって、あのふたりの出会いなんだもの。どちらにも良い印象を持って欲しくて、つい……。
「あ、そうか。ごめんよ。……ボクは京楽春水」
「俺は浮竹十四郎。これからよろしく」
春水がへらりと笑って挨拶すると、十四郎はにこりと笑って返した。
その十四郎の笑みには当然だけど、あの『お土産』を差し出してきた人達特有の媚びなどなくて、ただ普通の……同期生としての善意みたいなものだけがあって……春水にもそれが伝わったのだろう、一瞬、その瞳を瞬いた。
『家名』を名乗る前に、躊躇する気持ちとか。
そういうのを、飛び越えてきてくれる人。
……春水、それがわかる?
私は今、凄く嬉しい。
あぁ、やっとふたりが出会えたんだなって思ったら、なんだかちょっと、目頭が熱くなった。
