邂逅編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ

ringing 02

 私達3人が連れ立って寮に着いたら、春水の顔を一方的に知っていたらしい先輩が声を掛けてきた。
「京楽春水君と、さん? あと君は……」
「俺は浮竹十四郎です」
 ちょっとつっかえつっかえ聞くような態度の先輩にも、十四郎は屈託がない。
「……あぁ、浮竹君て言うのかい。……しまったな、僕はこちらの2人を案内するように先輩にいわれてるんだけど……今、他の案内役はみんな中に入って他の一回生に寮内の説明をしているから、ちょっと待たせてしまうよ。すまないね」
 なんか、気弱そうだけど良い人っぽいや、この先輩。
 思わず3人で顔を見合わせてクスリと笑ってしまう。
「他に案内の方がいらっしゃらないなら仕方ないです。俺は待ちますから」
「私達の案内は十四郎の後でも良いですよ? あと、先輩のお名前はなんて言うんですか?」
「そうだね、特に早く入寮したいわけでもないから、浮竹を先にして良いよ。……先輩、ひょっとしてボクの事、押し付けられたのかな?」
 あ、先輩、図星だ。
 春水の言葉にぐっと息を詰めた姿に、私は苦笑してしまう。
「僕は小松景清だよ。……えぇと、じゃあ……」
「浮竹を先に」
「わかった」
 さくりと言い切った春水の言葉に、つい条件反射のように応えてしまった後で、景清先輩は目を見開き、失敗した……という顔になった。
 私はそんな春水の手際に吃驚した。
 まるで上流貴族のように、命令するようなタイミングを心得ていたから……。
 いや、確かに春水は上流貴族なんだけど、今までそんな風に手際良くする所を、私は見た事がなくて……。
 思わず、春水の顔を見上げる。
 そんな私に、春水はバツが悪そうに苦笑していた。

 景清先輩の案内で、寮内の主要な施設を案内してもらった後、まずは十四郎の寮室に行った。
 十四郎はさっそく室内に入る。明日からすぐに授業開始だから、荷を解いて明日の用意をするのかも。
「4人部屋なんですか?」
 十四郎が部屋に入った後、その外にかかっている4枚の名札を見てとり、景清先輩に質問した。
「あぁ、普通は4人部屋だね。ただ、京楽君とさんは2人部屋になるよ。……さすがに他に2人同室にするわけにはいかなくて」
「……ご迷惑お掛けします」
 思わず謝ってしまう。
さんが謝る事はないよ。真央霊術院からの指示だろう? 学生だから従わなくてはいけないし、断る事もできなかっただろうから」
 景清先輩、素敵な誤解です……。
 私はその言葉を聞いて、微妙な顔で笑ってしまった。
 こういう気の良い人達ばかりなら、春水が苦労する事ないんだけどなぁ。






「へぇ……思ったより良い部屋だね。はどう思う?」
 景清先輩の案内で到着した部屋は、寮の端に位置した角部屋だった。
 室内は使い古された感じが漂いながらも、綺麗に掃除が行き届いてるようで清潔な感じがする。
 なんだかアンティーク風で、品の良い感じ。
 部屋の広さとしては十六畳くらい、それに浴室と御手洗い。
 成長期の男の子が4人部屋として過ごすなら狭いかもしれない、ひとり四畳の計算になる。浴室や御手洗いの敷地をなかった事にして、ようやく、ひとり五畳くらい。たとえ五畳だとしても、そこにそれぞれの勉強机や箪笥などの家具を置いたら、寝るためのスペースはやはりひとり三〜四畳。元が五畳でなく四畳だとしたら、ひとり二〜三畳だ。
 二〜三畳だと二段ベットなんてないだろうから、成長期の男の子が寝るために布団をしいたら部屋いっぱいになるじゃない。
「……なんか、ひょっとしてだけど」
 室内をざっと見て廻った私は、思い至った想像に苦笑する。
「うん?」
「ここ、私達の為に工事されたばかりかも」
「へ? ……え、でも……新築には見えないよ?」
 私の言葉に春水は不思議そうな表情になる。
 あぁ、工事といえば新築としか、連想できなかったんだろうなぁ。
 いくら思慮深い性格でも、まだ、貴族のお坊っちゃんの感覚しか知らないのだ。
「新築じゃなくてね、元々あった部屋を改装したと思う。この広さで4人部屋だって事だけど、それにしては少し狭いでしょう? 多分、あの浴室や御手洗いを付け足したせいじゃないかな……と思って。後で十四郎の方はどうなってるのか聞いてみよう」
「そうか、なるほどねぇ……」
 春水のしみじみとした言葉に、私は微笑んだ。
 こうやって少しずつ、経験値を積んで行くのだ。
「私のせいで、部屋を狭くしちゃったかもね。女子寮の浴場に夜毎通う手間が省けて助かるけれど」
「部屋が狭くなるのはどうでも良いよ。女の子が夜に出歩くなんて物騒だし」
「ありがとう。……ところで、そろそろ荷解きを始めたいんだけど……」
、まだ家具が届いてないよ」
「そうなのよねぇ」
 思わず、溜め息をついてしまう。
 寮学生が希望すれば、布団や勉強机などの必要最低限物資は真央霊術院側から支給されるらしいけど、『京楽』がそんなの望むはずもなく、私達の家具は春水のお母さんやお兄さんが揃えると話していた。
 まだ、この時代は、真央霊術院の財政が整っていないのだろう。
 生徒全員の物資を支給出来る状態ではないから、どうしても、裕福な貴族などの自主的な行為を受けざるを得ないのだ。
 たとえ、生徒の間に格差が出ても。
「家具って……この部屋に入るのかな?というか、やけに豪華な家具が届いたらどうしよう?」
「いや、母上や兄上の事だから、そこら辺は抜かりないと思うけど……」
「…………」
「…………」
 思わず、見つめあったまま沈黙してしまう。

 それから後に届いた家具は、ふたりそれぞれの布団……さすがに寮室内でひとつ布団で寝るのは駄目なのだろう……あと部屋の間取りを考慮したのか、ふたり兼用の勉強机になるようにと大きめの卓がひとつ、そして同じく兼用の大きめの衣装箪笥がひとつ、あとは私宛の小さな簡易化粧台だった。
 家具が3つに布団がふたつ、それらはこの部屋にすっきりと収まり、この部屋の雰囲気にあわせたアンティーク風のシンプルで品の良い物だったけど、あの瞬間、私達ふたりは本気でこの部屋に似つかわしくない豪華な家具が届くのではないかと心配していたと思う。
 後から思うと、笑えてしまうくらいささやかな心配だった。







 翌日から、真央霊術院での本格的な生活が始まった。
 まず、男子寮の皆さんは私にとても良くしてくれた。なんでも男子寮に入っている大半の人が下級貴族か流魂街の出身で、出身が違い過ぎる春水にどう接して良いのか判断できる人が誰もいなくて、大層困っていたらしい。だから春水との橋渡し役になる私の存在が、とても助かる……ありがたいとまで言われて、吃驚した。
 砕蜂が夜一さんを最初は崇拝するばかりだったように、護廷十三隊の平隊員と隊長のように、人はあまりにも階級に格差があると畏まるばかりになって、心の中で距離を取ってしまうのかもしれない。
 だから、春水に取り入って召し抱えてもらおうとかいう発想すらできないのだろう。
 それに気がついた私と春水は、ホッとしたと同時に、これはこれで大変だねぇと苦笑した。
 とにかく、何をするにしても相手がビクビクと脅えるのだ。
 たとえ六回生だとしても、一回生の春水に脅えてしまう。
 五回生の景清先輩に、春水の案内を押し付けあった皆さんの心境は、まさに触らぬ神に祟りなし。下手に接してご機嫌を損ねたらどうする?!という心理。
「ボクってそんなに怖く見えるのかなぁ……」
 入寮してしばらく、春水はかくりと項垂れてそんな事を言っていた。
 今の所、寮内で春水に普通に接するのは、私と十四郎だけ。あと、景清先輩はだいぶ慣れてくれたのか、春水が寮の門限を破りそうになるのを見つけると、そういうのは駄目だよと柔らかく注意してくれる。少し腰が引けた姿勢なのはあの人の素なのだろう。気が弱いと言うよりは、押しが弱いのかもしれない。
 まだまだ春水への対応にぎくしゃくとする寮内で、景清先輩こそ私と春水にとってありがたい存在だった。
「少しすれば皆も慣れて、春水に畏まる事はなくなるよ、きっと」
「だと良いねぇ……」
「というか、どうして京楽にそんなに気を使うんだ? たとえ『京楽家』でも、同じ学生なのに」
 十四郎の言葉に、春水と私は微笑んでしまう。
 私と春水と十四郎は同じクラスだから、授業がある日は朝食を3人一緒に食べ、連れ立って教室まで移動している。その時に交わす会話の中で、十四郎に『真っ白』な部分がある事がわかってきた。
 汚い事に染まらない、やさしい部分、それはその髪のように柔らかな印象を滲ませる。
 私と春水しか居ない寮室で、そんな十四郎の事をしみじみと語った時もあった。
「ボク、あんなに世間ずれしていない同期がいるとは、思いもよらなかった」
「そうね」
 もしかしたら、身体のせいで『外』に触れる事が今まであまりなくて、『大人』の汚い部分を知らないのかもしれない。そんな発想は少し悲しかったけど。
「でも春水。きっと十四郎は世間にまみれても、あのままなんじゃないかな」
 どんなに汚い事を目にしても、あの『無垢』とも言える心を、変質させることなく持ち続けそうな気がする。
 そうして、『浮竹隊長』のような男性になるのだろう。
「あぁ……そうかも。…………浮竹って凄いなぁ……」
「うん、凄いよね。それに春水の側には、ちょっと居なかったタイプでしょう」
「んー……? ……そんな事ない、かも。世間ずれしていないのはも一緒だからね。少し、十四郎とは似ていると思うよ」
「え?!」
 ちょっと待って! 私のどこが世間ずれしていないの?!!
 これでも成人しているし、結婚や出産だって経験したのよ、多少は世間にもまれたと思うのに。
 私が信じられないっと訴えれば、春水はクスリと笑う。
「まぁ、本人たちには自覚がないものだろうねぇ……」
 くっ……、その余裕のある顔が憎いっ。
 この頃の春水は増々、飄々とした風格をかもし出すようになってきている。
 授業には出たり出なかったり落ち着きがないけど、サボる授業の大半が、春水の家名を変に意識した先生の物ばかりで、普通に指導してくれる先生の授業には、きちんと出るように心掛けているようだ。
 女の子大好き!っていう性格なのは変わらない。
 時々、夜遊びをして帰宅するその肌から白粉の移り香がする。
 真央霊術院に入っても、恋人さん達と抜かりなく付き合い続けているのだろう。
 ただ、それに反して、真央霊術院の女子生徒には、かなり戯けた感じで迫っている。
 もっとマトモに口説く事もできるだろうに、何故か冗談半分のような勢いで。
 どうしてなのかな?
 あれと比べたら、私の短くなった髪を毎朝梳きとかしてくれたり、制服を綺麗に着せようと甲斐甲斐しく接してくれたりする姿のほうが、よっぽど口説いている姿に見える。
 でも、私と春水は大切な友達なだけで。
 お互いに、大切にし合っているだけだ。
 一度、「私に見せてるそういう姿で接した方が、女性の受けは良さそうだよ」と言ってあげたのに、「まぁ、ボクが好きでああいう風に女の子達を口説いてるんだし、好きにさせてよ」と躱されてしまった。
 女性を口説く心理を察するのは、女の私には難しいのかも。
 そういうのはやっぱり、同じ男性のほうが分かるのかもしれない。
 だから、なんとなく、機会があったら十四郎に尋ねてみようと思った。






 十四郎とは寮室が違うけど、同じ寮学生で同じクラスだったから接する機会が増えて、入学から1週間過ぎた頃には春水に次いで十四郎と一緒に過ごす事が多くなっている。
 十四郎の屈託のない笑顔やその大らかな性格に惹かれて、その周囲にはいつも人が絶えない。
 私もその内のひとりだ。
 そう思っていたんだけど、どうも周囲はそう思ってくれない。
 最初は皆、私の制服の色に面喰らっただけかと考えていたんだけど、皆が口を揃えて言うには、私の剣術の腕を知ったから……らしい。
 一番最初の剣術の授業で、それはクラス中に知れ渡った。
 私と対戦した、腕に自信ありそうな男子の竹刀と、私の竹刀が打ち合わさった瞬間、男子の竹刀がはじけ飛んで折れてしまったのだ。それを見ていた春水は、あれでは勝負する以前の問題だねぇと苦笑した。
 そんな自体になって周囲も吃驚したけど、私も吃驚した。
 ……そうだ、私、今の所は春水と同等なんだっけ……?
 私は今まで春水以下の相手と対戦した事がなく、始めてあからさまに格下の相手と対戦していたのだと、手加減しなければ駄目なのだと、その仕合が終わってからやっと状況が飲み込めた。
 剣術の教科担任は慌てて私に「もう少し手加減する事を覚えなさい」と言い。
 その授業の後、その日の内に私の制服の色は剣術の腕のせいだ……という噂が広まった。
 誤解なんだけど、まぁそれで良いかと思う。
 本当の事が知れ渡るよりは、良いかなって。
 そしてしばらくすると、そんな私と互角に渡り合い、勝てたり負けたりできるのは、十四郎と春水だけだと言う事も周囲に知れ渡る。

「なんとなく、3人セットで考えられてるような気がする」
「剣術の腕だけで?」
 真央霊術院の校舎から離れた林の中にある開けた平地に座り、昼食を食べながら私がぼやけば、春水がそれに戯けたように微笑んで応えて。
「あと、飯時も一緒にいるからか?」
 十四郎が眉間に皺を寄せた真面目な顔で続く。
 私はそんな2人の言葉を受けて、またぼやいてしまう。
「……それでセットに見られてるの……?」
 なんだか、この2人の間に割って入ってしまったようで、凄く申し訳なかった。
 別に私達は、真央霊術院の中でいつもべったり一緒にいる訳ではない。
 春水は気が向けばふらりとどこかにサボりに行くし、十四郎は十四郎と親しくなりたいと思っている人に頻繁に呼ばれるし、私は制服のせいでちょっと距離があきがちな女子とも仲良くできるように、2人が一緒にいない時は他の女子生徒と交流するように心掛けているし。
「夕餉までは3人一緒じゃないのにね」
、それはボク達と同じく男子寮に居る人にしか分からないよ」
 あ、そうか。
 真央霊術院の中では、昼食を一緒に取る事が、イコールご飯を一緒にしている事なんだ。
 でも、他の人と一緒にご飯を食べると、大抵の人が春水にちらちらと視線を向けるし……。
 そんなの春水にとって、ちっとも落ち着けない食事になってしまうから、春水の実家の事を気にしない十四郎以外と一緒に食べるのは論外。
 朝食の時は、登校前という慌ただしさに紛れて誰も春水の事を気にしない。
 だから朝食だけは寮の食堂で食べているけど。
「そういえば、京楽は夕餉をどこで取ってるんだ? 時々、寮の門限ぎりぎりまで出歩いてるようだし、夕餉時に寮に居ても食堂に出て来ないだろう。その時はも食堂に出て来ないよな?」
「……ぐっ」
「春水っ、お茶飲んで!」
 思いっきりご飯を喉に詰まらせた春水は、私が慌てて差し出したお茶を飲んでなんとかご飯を流し込む。
「どうした? 俺は何か変な事を聞いたのか?」
「……十四郎って、噂とか全然知らないんだね」
 なんか『真っ白』どころか、『天然』って文字が脳裏に浮かんでしまう。
 まだ少し咳き込んでいる春水の背を撫でながら、私は苦笑した。
「春水が出歩いてる時はね、恋人さん達や女の子たちに逢いに行ってるの。あと、出歩いてない時は、私と一緒に寮室の中で夕餉を食べてるの、食堂から膳を持ってきたり、春水が買ってきた物とかをね」
 春水の夜遊びは、入学一月目にして既に大っぴらな噂になっているのに、十四郎ってば知らなかったんだなぁ。
「初日にも思ったが、京楽の相手は複数人なのか……?」
 あ、説明したら余計に十四郎の眉間の皺が寄っちゃった。
「……〜っ、後でボクがぼこぼこにされても良いの?! そういうトコ潔癖なんだよ浮竹は! 勘弁してよぉっ」
 咳き込み終えると春水は、実になさけない声音で訴える。
 私は思わずにっこりと笑ってしまう。
「簡単にぼこぼこにされないよ、春水は」
 春水には悪いけど、これくらいの刺激があっても良いでしょう。
 私は2人の仕合を見るのが大好きだった。
 2人とも、剣を取るといつにも増してかっこいいけど、やっぱり実力の拮抗している相手と仕合っている方が、華があって素敵だから。
 私と仕合う姿もかっこいいけど、その時は私が応戦するのに必死で、その姿の良さまで余裕を持って見る事ができない。時々、不意打ちみたいに、うわぁ格好良い!と思う瞬間があっても、それに惚けてばかりでは直ぐに負けてしまう。
 簡単に負けてしまうのは、悔しいから絶対にしない。したくないと思う。
 でも、かっこいい2人を見るのが好きだから。
 ごめんね春水、がんばって。
「……つまり……本当に京楽の相手は複数なんだな……」
 十四郎は深く溜め息を吐いて言った。
 春水はその言葉に言い訳をせず、へらりと笑うに留めた。
 私は昼食後の剣術の授業で2人が仕合うのを楽しみにして、にっこりと笑った。

END: ringing 02

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This fan fiction by ぞら
初出: 2006年1月4日

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