邂逅編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
ringing 03
私はふたりが仕合う姿をじっと見つめた。
春水の立ち姿には、揺るぎない力強さがあって威風堂々とした風格がある。
けれどいざ竹刀を交えると、ふわりとした太刀筋で、打ち込んだ力を流される。また、隙を見せれば、ふわりとした太刀筋で打ち込まれて、いつのまにかペースを持っていかれてしまう。そのまま流されたままで居ると、いつのまにか体制を崩されて一撃を喰らってしまう。
崩されないように、流されないようにするには、打ち流せないほどの力で刃を交えて流れを断ち切るか、春水の太刀筋を予測しそれを上回りひたすら打ち合い続けるしかない。
まるで、風に舞う花弁のようにつかみ所のない太刀筋。
その癖、立ち姿で見て取れるように、太刀の一撃一撃は重くて力強いのだ。
力強さでは春水にかなわない私は、春水の太刀筋を予測し打ち合う中で、わずかに生じさせる事ができる隙を見極めるのに必死だ。
私と同じく力強さでは春水にかなわないはずの十四郎は、霊圧を爆発的に上げて己の一撃を重くする事ができるので、春水の一撃を力押しで退ける事もできる。私はそれが羨ましかった。
十四郎の立ち姿は、涼やかで、とても清清しく、一見するとおとなしそうに見える。
けれどそれに騙されると酷い目にあってしまう。おとなしそうに見える姿から溢れる霊圧は大きく、その霊圧が波立ち隠された激しさが見える頃には、鋭い一撃を打ち込んでくる。
気を緩めていると、あっという間に負けてしまう。
負けないためには、隙を見せずに十四郎の太刀を躱しその打ち込みを流したり受けとめて打ち合い続けたり、またはその一撃を殺すほど力強い一撃をくり出すしかない。けれど、十四郎の一撃を上回る事のできる相手なんて春水くらいだ。私は打ち合い続けて隙を生じさせ、そこに活路を見い出すしかない。
十四郎はその姿に反して、激しく、力強く、鋭い太刀筋だった。
その癖、私と違って手加減しなければいけない相手には、きちんと手加減できる。とにかく霊圧の上げ下げのコントロールが上手いのだ。
『雷』と『波』ってこういう事かな……と、今の十四郎はまだたどり着いていないだろう『始解』の言霊を思い出す。
そんな2人が仕合う姿は、とてもかっこいい。いつも飄々としている春水の真剣な表情も、いつも大らかで柔らかな十四郎が鋭く研ぎすまされるのも、とても新鮮だし、2人がぎりぎりの駆け引きを交わす瞬間には惚れ惚れとする。
「の立ち姿は、静謐に満ちて綺麗なんだよね。ボク、最初に見た時、見愡れたもの」
「そうだな。俺もの立ち姿は綺麗だと思う。京楽は静謐か、俺は静穏だと思っていた。意味合いはほぼ同じだな、静かで穏やかに見えるんだ。その癖、その太刀筋は鮮やかで華々しい、目を奪われる感じがする」
「きっ、綺麗って……」
3人一緒に寮へと帰宅する途中、今日おこなった剣術の授業での2人の仕合う姿の感想を伝えたら、予想外の応えが来た。
綺麗って、……剣術の事とはいえ、なんか照れちゃうよ。
「、顔赤いよ?」
「春水!」
「京楽、をからかうな。は他の女子とは違うんだろう?」
「ちょっ……! 浮竹、余計な事を言うなよ」
「……違うって、何が違うの?……やっぱり男勝りすぎるのかな」
それに、余計な事って……そんな言い方をされると悲しい。
私が少し、しゅんとしたのを見てとったのか、春水は慌てたようで。
「誤解しないでっ! ……あのね、その……」
言い訳をしようとしたけど、春水は言いかけたまま、言い淀み、そのまま何も言わなくて。
「……案外、純情な所もあるんだな、京楽」
そんな春水を見上げたまま十四郎が笑う。
そうして、笑ったまま続けた。
「あのな、。京楽はいつも真央霊術院の女の子を追い掛けているだろう? そして逃げられる事も多いだろう?こいつが言うには、それも女の子を追い掛ける楽しみなんだそうだ。逃げられるのも良いって言うのさ」
「浮竹っ、止めてよ」
「に誤解されたままで良いのか?」
「…………それは」
「どうせお前、自分自身の口からは言えないんだろう」
「…………そぅ、だけど」
「なら黙ってろ」
「………………」
う、浮竹さんって言うか……十四郎、春水をやり込めちゃったよ……!
やっぱりまだ春水にも精神的に育ちきってない所があるからかな……ふたりの将来の姿を思うに、凄く意外だ。
私は思わず、さっきまでの悲しさを忘れて呆然とふたりを見てしまった。
「、さっきの続きなんだが」
「う、うん」
「女の子に逃げられるのも楽しいと思ってる京楽が、唯一、逃げて欲しくないのがなんだ。恋愛事の駆け引きで遊びたいわけじゃない、ただ、ずっと側に居て欲しい相手、それがだって言うのさ。つまり、そういう意味で、京楽に取って大勢の女の子とは比べようもなく違う存在なんだろうな。……まったく、京楽、それならをからかうな。後でお前が自分自身でした事に落ち込むだけだろう」
「…………」
「…………」
十四郎の言葉を聞き終えて、春水の日に灼けた肌が赤く染まっている。
たぶん、私も似たようなものだろう。
そんな私達を見て、十四郎はからりと笑う。
「いつまで赤面しているんだ? も京楽もお互いを凄く大事にしているだろう? しかもその気持ちを、決して相手の負担にならないようにもしているだろう? 俺はそれは好い事だと思う。そんな風に照れなくてもいいじゃないか」
そ、そんな事を言われても。
「十四郎、あのね、人の口から聞くと、なんか恥ずかしさが十倍くらいになって……」
当分、染まった頬は元に戻りそうにない。
いくら春水と私がお互いを大切な友達だと思っていても、赤裸々すぎて恥ずかし過ぎる。
「そんなものなのか?」
十四郎は、首を傾げるだけで一向に取り合ってくれなかった。
もしかしたら、その性格が大らかなあまり、十四郎は好意の表現の仕方が直球なのかもしれない。
そんな風に考えている内に、私達は寮にたどり着いてしまった。
「浮竹、ボクが絶対に言わないつもりだったことを、さくりと言ってくれたなぁ……」
春水は寮部屋に帰ったとたん、畳にごろりと寝転がりぼやき始める。
私はその隣に座り込む。
寝転がったままの春水は、そんな私を見上げて観念したように微笑んだ。
「凄く恥ずかしかったよ、ボク」
「そうだね。私も凄く恥ずかしかった……照れちゃうよ、春水って十四郎とあんな事を話してたんだね」
私が大切だとか、大事だとか。
「だってさぁ、浮竹が今の所一番信用できるし、友達だなって思えたから……何か話したくなって」
「うん」
「色々話すようになってから、浮竹が、ボクが女の子を追いかけてるのを校舎内で見かけたけど、そんなに女性が好きな性格のお前とが同室なのはとんでもない事なんじゃないかって言い出して」
「そっか、十四郎、そういう所が生真面目なんだね」
「みたいだね。それで、その……それに反論している内に、は他の女の子とは違うんだって話に……」
「あぁ……なるほど」
納得した。
同時に、とてもくすぐったい気分になる。
「大事にしてくれてありがとう、春水」
お礼を言いながら、寝転がったままの春水の髪を撫でると、春水はそのまま、もそりと横を向いてしまった。
顔は見えなくなったけど、その耳が赤いのは見えるので、私の顔は自然と微笑んでしまう。
言うつもりがなかったくらいだから、凄く照れてるんだろうなって。
そう、思い至ったら、くすぐったくて仕方なかった。
翌朝、いつものごとく3人で朝食を取るため、春水と連れ立って十四郎の部屋の前に行く。
部屋の前では、いつも通り十四郎が待っていた。
「浮竹、珍しいね。お前さんが霊圧を乱してるなんて」
「顔色がいつにも増して白いよ十四郎、体調を崩したの?」
「いや、ちょっと寝不足なだけで……大丈夫だ、、京楽」
大丈夫だって……言われても。
春水は納得したようだけど、私は血の気が引く思いだった。
たぶん、いや、絶対に……寝不足なんかじゃない、体調を崩したんだ。
昨日の剣術の授業ではあんなに元気だったのに、こんな風に突然、悪化するのだと……知っていたけどショックだった。
十四郎、授業に出たくて無理しているんだろうな……まさか、血を吐くまでがんばるつもり?
その予想はとても怖くて、でも怖かったからこそ、覚悟をしなければと思った。
昼過ぎの放課後、私は教室の中で、苦手な鬼道の授業の復習をする。
全ての成績で高得点を取る十四郎やそれに次ぐ春水と違って、私は科目の得意不得意の差が激しい。剣術はふたりに並び立てるほどだけど、一番苦手な鬼道に関してはクラスの中でも下のほうだろう。
だから気が向いた時に復習をしていて、そしてその時に納得がいかない箇所があって、それを春水か十四郎に聞こうと思ったら、ちょうど十四郎が席を立つ所だったのだ。
十四郎はさらに真っ白になった顔色を隠すように、ひっそりと教室を出ていこうとしていた。
いつも、人に囲まれている人が、人を避けるように歩く姿は、凄く悲しい。
……医務室に行くの?
それなら良い。
でも、それにしては方向が違うような気がする。
教室を出た後に向かう十四郎の霊圧を探って、その方向に眉を寄せる。
後を追うために席を立つ事に、迷いはなかった。そして、もし十四郎が倒れたのなら、医務室に運ぶには私だけでは無理だと、認めざるを得なかった。
「春水、ちょっと一緒に来てくれる?」
「……どうしたの?」
席に座っていた春水は、私の顔色を見てとって何を思ったのか、少し心配そうに言って、すぐさま席を立ってくれた。
私は何も言わないままその腕を取って、十四郎の後を追いかけた。
「、本当にどうしたの?」
「……十四郎の後を追ってるの」
校舎を出て、人気がなくなってから春水の質問に私は応えた。
いつも一緒にいたせいか、私でも何とか十四郎と春水の霊圧ならたどれるようになった。それでも距離が離れ過ぎると分からなくなるので、見失うのが怖くて小走りになりながらだけど、鍛練の賜物かお互いに息は乱れない。
「…………あぁ、たしかに浮竹がこっちのほうに居るね。もうすぐ授業が始まるのに、サボるつもりなのかな? 珍しい。それにずいぶんと霊圧が乱れている」
「好んでサボるつもりではないと思う。私には、霊圧の乱れまではわからないけど……十四郎、顔色が悪かったの、凄く」
「……ただの寝不足ではなかった?」
「たぶん」
私がそう応えた時には、十四郎に追い付いていた。
いつも昼食をとっている林の中でも、特に人気のない場所に、まるで逃げ込むように、ひとりで、こちらに半ば背を向けるようにして。
ひとりきりで血を吐いて。
「十四郎!!!」
私の声に驚いたように、まだ私と同じくらいの大きさの身体が大きく跳ねる。
ゆっくりと私や春水のほうに振り返ったその口元には手、とっさに何かを隠そうとしたように、でも、その気持ちは裏切られて、その指の間から血がしたたり落ちていく。
「浮竹?!」
春水の驚愕の声を聞きながら、私は十四郎の側に駆け寄り、懐から懐紙――ハンカチのような布を取り出してその口元の血を拭った。
十四郎の喉からは、ひゅうひゅうと耳障りな音がする。
私に血を拭われるままだった十四郎は、息を整えるといつもの笑顔で笑う。
「……っ……ばれちまったな」
「何を言ってるのよっ!」
隠し通して、ひとりで耐えるつもりだったの?!
「春水、十四郎を医務室に連れていこう!」
私の呼び掛けに、十四郎の姿を見て呆然としていた春水は、我に還ったようだ。慌てて側に駆け寄り、手を伸ばしてその身体を抱き起こそうとする。
春水の手は、かすかに震えていた。
こんなに大量の血を見るのは初めてなのかもしれない。おまけに、やっと私以外に友達だと思えた相手のこんな姿を見て、平静で居ろと言うのは無理だ。
私だって、女でなければ、これほど血に耐性がついていなかった。
それに、事前にある程度の覚悟もあったから。
助けなければって、思って。
「……やめろ、京楽、」
「どうしてよ、そんなに血を吐いているのなら、医務室に行かないと!」
「の言う通りだよ、医務室に行こう浮竹」
「……いや……いつものことだから、そのあたりに寝かせておいてくれれば……」
十四郎の主張に、私と春水は一瞬、愕然として身体の動きを止めた。
「馬鹿な事を言わないでよ……っ」
じわりと目に涙が滲む。
涙を零してる場合ではなく、泣いてる場合でもない。でも、十四郎の物言いが凄く悲しかったから。
堪らないと思う。
「すぐに、医務室に連れていくからっ……!」
涙声になっているのが凄い悔しい。
「浮竹、を泣かせないでよ」
「っ……悪い……」
「そう思っているんなら大人しく運ばれてよ?、行こう」
「うん」
そうして、私達は医務室までの道を十四郎を抱えて走り始めた。
春水の立ち姿には、揺るぎない力強さがあって威風堂々とした風格がある。
けれどいざ竹刀を交えると、ふわりとした太刀筋で、打ち込んだ力を流される。また、隙を見せれば、ふわりとした太刀筋で打ち込まれて、いつのまにかペースを持っていかれてしまう。そのまま流されたままで居ると、いつのまにか体制を崩されて一撃を喰らってしまう。
崩されないように、流されないようにするには、打ち流せないほどの力で刃を交えて流れを断ち切るか、春水の太刀筋を予測しそれを上回りひたすら打ち合い続けるしかない。
まるで、風に舞う花弁のようにつかみ所のない太刀筋。
その癖、立ち姿で見て取れるように、太刀の一撃一撃は重くて力強いのだ。
力強さでは春水にかなわない私は、春水の太刀筋を予測し打ち合う中で、わずかに生じさせる事ができる隙を見極めるのに必死だ。
私と同じく力強さでは春水にかなわないはずの十四郎は、霊圧を爆発的に上げて己の一撃を重くする事ができるので、春水の一撃を力押しで退ける事もできる。私はそれが羨ましかった。
十四郎の立ち姿は、涼やかで、とても清清しく、一見するとおとなしそうに見える。
けれどそれに騙されると酷い目にあってしまう。おとなしそうに見える姿から溢れる霊圧は大きく、その霊圧が波立ち隠された激しさが見える頃には、鋭い一撃を打ち込んでくる。
気を緩めていると、あっという間に負けてしまう。
負けないためには、隙を見せずに十四郎の太刀を躱しその打ち込みを流したり受けとめて打ち合い続けたり、またはその一撃を殺すほど力強い一撃をくり出すしかない。けれど、十四郎の一撃を上回る事のできる相手なんて春水くらいだ。私は打ち合い続けて隙を生じさせ、そこに活路を見い出すしかない。
十四郎はその姿に反して、激しく、力強く、鋭い太刀筋だった。
その癖、私と違って手加減しなければいけない相手には、きちんと手加減できる。とにかく霊圧の上げ下げのコントロールが上手いのだ。
『雷』と『波』ってこういう事かな……と、今の十四郎はまだたどり着いていないだろう『始解』の言霊を思い出す。
そんな2人が仕合う姿は、とてもかっこいい。いつも飄々としている春水の真剣な表情も、いつも大らかで柔らかな十四郎が鋭く研ぎすまされるのも、とても新鮮だし、2人がぎりぎりの駆け引きを交わす瞬間には惚れ惚れとする。
「の立ち姿は、静謐に満ちて綺麗なんだよね。ボク、最初に見た時、見愡れたもの」
「そうだな。俺もの立ち姿は綺麗だと思う。京楽は静謐か、俺は静穏だと思っていた。意味合いはほぼ同じだな、静かで穏やかに見えるんだ。その癖、その太刀筋は鮮やかで華々しい、目を奪われる感じがする」
「きっ、綺麗って……」
3人一緒に寮へと帰宅する途中、今日おこなった剣術の授業での2人の仕合う姿の感想を伝えたら、予想外の応えが来た。
綺麗って、……剣術の事とはいえ、なんか照れちゃうよ。
「、顔赤いよ?」
「春水!」
「京楽、をからかうな。は他の女子とは違うんだろう?」
「ちょっ……! 浮竹、余計な事を言うなよ」
「……違うって、何が違うの?……やっぱり男勝りすぎるのかな」
それに、余計な事って……そんな言い方をされると悲しい。
私が少し、しゅんとしたのを見てとったのか、春水は慌てたようで。
「誤解しないでっ! ……あのね、その……」
言い訳をしようとしたけど、春水は言いかけたまま、言い淀み、そのまま何も言わなくて。
「……案外、純情な所もあるんだな、京楽」
そんな春水を見上げたまま十四郎が笑う。
そうして、笑ったまま続けた。
「あのな、。京楽はいつも真央霊術院の女の子を追い掛けているだろう? そして逃げられる事も多いだろう?こいつが言うには、それも女の子を追い掛ける楽しみなんだそうだ。逃げられるのも良いって言うのさ」
「浮竹っ、止めてよ」
「に誤解されたままで良いのか?」
「…………それは」
「どうせお前、自分自身の口からは言えないんだろう」
「…………そぅ、だけど」
「なら黙ってろ」
「………………」
う、浮竹さんって言うか……十四郎、春水をやり込めちゃったよ……!
やっぱりまだ春水にも精神的に育ちきってない所があるからかな……ふたりの将来の姿を思うに、凄く意外だ。
私は思わず、さっきまでの悲しさを忘れて呆然とふたりを見てしまった。
「、さっきの続きなんだが」
「う、うん」
「女の子に逃げられるのも楽しいと思ってる京楽が、唯一、逃げて欲しくないのがなんだ。恋愛事の駆け引きで遊びたいわけじゃない、ただ、ずっと側に居て欲しい相手、それがだって言うのさ。つまり、そういう意味で、京楽に取って大勢の女の子とは比べようもなく違う存在なんだろうな。……まったく、京楽、それならをからかうな。後でお前が自分自身でした事に落ち込むだけだろう」
「…………」
「…………」
十四郎の言葉を聞き終えて、春水の日に灼けた肌が赤く染まっている。
たぶん、私も似たようなものだろう。
そんな私達を見て、十四郎はからりと笑う。
「いつまで赤面しているんだ? も京楽もお互いを凄く大事にしているだろう? しかもその気持ちを、決して相手の負担にならないようにもしているだろう? 俺はそれは好い事だと思う。そんな風に照れなくてもいいじゃないか」
そ、そんな事を言われても。
「十四郎、あのね、人の口から聞くと、なんか恥ずかしさが十倍くらいになって……」
当分、染まった頬は元に戻りそうにない。
いくら春水と私がお互いを大切な友達だと思っていても、赤裸々すぎて恥ずかし過ぎる。
「そんなものなのか?」
十四郎は、首を傾げるだけで一向に取り合ってくれなかった。
もしかしたら、その性格が大らかなあまり、十四郎は好意の表現の仕方が直球なのかもしれない。
そんな風に考えている内に、私達は寮にたどり着いてしまった。
「浮竹、ボクが絶対に言わないつもりだったことを、さくりと言ってくれたなぁ……」
春水は寮部屋に帰ったとたん、畳にごろりと寝転がりぼやき始める。
私はその隣に座り込む。
寝転がったままの春水は、そんな私を見上げて観念したように微笑んだ。
「凄く恥ずかしかったよ、ボク」
「そうだね。私も凄く恥ずかしかった……照れちゃうよ、春水って十四郎とあんな事を話してたんだね」
私が大切だとか、大事だとか。
「だってさぁ、浮竹が今の所一番信用できるし、友達だなって思えたから……何か話したくなって」
「うん」
「色々話すようになってから、浮竹が、ボクが女の子を追いかけてるのを校舎内で見かけたけど、そんなに女性が好きな性格のお前とが同室なのはとんでもない事なんじゃないかって言い出して」
「そっか、十四郎、そういう所が生真面目なんだね」
「みたいだね。それで、その……それに反論している内に、は他の女の子とは違うんだって話に……」
「あぁ……なるほど」
納得した。
同時に、とてもくすぐったい気分になる。
「大事にしてくれてありがとう、春水」
お礼を言いながら、寝転がったままの春水の髪を撫でると、春水はそのまま、もそりと横を向いてしまった。
顔は見えなくなったけど、その耳が赤いのは見えるので、私の顔は自然と微笑んでしまう。
言うつもりがなかったくらいだから、凄く照れてるんだろうなって。
そう、思い至ったら、くすぐったくて仕方なかった。
翌朝、いつものごとく3人で朝食を取るため、春水と連れ立って十四郎の部屋の前に行く。
部屋の前では、いつも通り十四郎が待っていた。
「浮竹、珍しいね。お前さんが霊圧を乱してるなんて」
「顔色がいつにも増して白いよ十四郎、体調を崩したの?」
「いや、ちょっと寝不足なだけで……大丈夫だ、、京楽」
大丈夫だって……言われても。
春水は納得したようだけど、私は血の気が引く思いだった。
たぶん、いや、絶対に……寝不足なんかじゃない、体調を崩したんだ。
昨日の剣術の授業ではあんなに元気だったのに、こんな風に突然、悪化するのだと……知っていたけどショックだった。
十四郎、授業に出たくて無理しているんだろうな……まさか、血を吐くまでがんばるつもり?
その予想はとても怖くて、でも怖かったからこそ、覚悟をしなければと思った。
昼過ぎの放課後、私は教室の中で、苦手な鬼道の授業の復習をする。
全ての成績で高得点を取る十四郎やそれに次ぐ春水と違って、私は科目の得意不得意の差が激しい。剣術はふたりに並び立てるほどだけど、一番苦手な鬼道に関してはクラスの中でも下のほうだろう。
だから気が向いた時に復習をしていて、そしてその時に納得がいかない箇所があって、それを春水か十四郎に聞こうと思ったら、ちょうど十四郎が席を立つ所だったのだ。
十四郎はさらに真っ白になった顔色を隠すように、ひっそりと教室を出ていこうとしていた。
いつも、人に囲まれている人が、人を避けるように歩く姿は、凄く悲しい。
……医務室に行くの?
それなら良い。
でも、それにしては方向が違うような気がする。
教室を出た後に向かう十四郎の霊圧を探って、その方向に眉を寄せる。
後を追うために席を立つ事に、迷いはなかった。そして、もし十四郎が倒れたのなら、医務室に運ぶには私だけでは無理だと、認めざるを得なかった。
「春水、ちょっと一緒に来てくれる?」
「……どうしたの?」
席に座っていた春水は、私の顔色を見てとって何を思ったのか、少し心配そうに言って、すぐさま席を立ってくれた。
私は何も言わないままその腕を取って、十四郎の後を追いかけた。
「、本当にどうしたの?」
「……十四郎の後を追ってるの」
校舎を出て、人気がなくなってから春水の質問に私は応えた。
いつも一緒にいたせいか、私でも何とか十四郎と春水の霊圧ならたどれるようになった。それでも距離が離れ過ぎると分からなくなるので、見失うのが怖くて小走りになりながらだけど、鍛練の賜物かお互いに息は乱れない。
「…………あぁ、たしかに浮竹がこっちのほうに居るね。もうすぐ授業が始まるのに、サボるつもりなのかな? 珍しい。それにずいぶんと霊圧が乱れている」
「好んでサボるつもりではないと思う。私には、霊圧の乱れまではわからないけど……十四郎、顔色が悪かったの、凄く」
「……ただの寝不足ではなかった?」
「たぶん」
私がそう応えた時には、十四郎に追い付いていた。
いつも昼食をとっている林の中でも、特に人気のない場所に、まるで逃げ込むように、ひとりで、こちらに半ば背を向けるようにして。
ひとりきりで血を吐いて。
「十四郎!!!」
私の声に驚いたように、まだ私と同じくらいの大きさの身体が大きく跳ねる。
ゆっくりと私や春水のほうに振り返ったその口元には手、とっさに何かを隠そうとしたように、でも、その気持ちは裏切られて、その指の間から血がしたたり落ちていく。
「浮竹?!」
春水の驚愕の声を聞きながら、私は十四郎の側に駆け寄り、懐から懐紙――ハンカチのような布を取り出してその口元の血を拭った。
十四郎の喉からは、ひゅうひゅうと耳障りな音がする。
私に血を拭われるままだった十四郎は、息を整えるといつもの笑顔で笑う。
「……っ……ばれちまったな」
「何を言ってるのよっ!」
隠し通して、ひとりで耐えるつもりだったの?!
「春水、十四郎を医務室に連れていこう!」
私の呼び掛けに、十四郎の姿を見て呆然としていた春水は、我に還ったようだ。慌てて側に駆け寄り、手を伸ばしてその身体を抱き起こそうとする。
春水の手は、かすかに震えていた。
こんなに大量の血を見るのは初めてなのかもしれない。おまけに、やっと私以外に友達だと思えた相手のこんな姿を見て、平静で居ろと言うのは無理だ。
私だって、女でなければ、これほど血に耐性がついていなかった。
それに、事前にある程度の覚悟もあったから。
助けなければって、思って。
「……やめろ、京楽、」
「どうしてよ、そんなに血を吐いているのなら、医務室に行かないと!」
「の言う通りだよ、医務室に行こう浮竹」
「……いや……いつものことだから、そのあたりに寝かせておいてくれれば……」
十四郎の主張に、私と春水は一瞬、愕然として身体の動きを止めた。
「馬鹿な事を言わないでよ……っ」
じわりと目に涙が滲む。
涙を零してる場合ではなく、泣いてる場合でもない。でも、十四郎の物言いが凄く悲しかったから。
堪らないと思う。
「すぐに、医務室に連れていくからっ……!」
涙声になっているのが凄い悔しい。
「浮竹、を泣かせないでよ」
「っ……悪い……」
「そう思っているんなら大人しく運ばれてよ?、行こう」
「うん」
そうして、私達は医務室までの道を十四郎を抱えて走り始めた。
