流転編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
knock into novice 01
その書面の文字を見咎めた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
「……これは……不味すぎる……」
つい先日、十一番隊の隊長と副隊長の就任を迎えたばかりの剣八とやちるちゃんが、己の就任を了承した事を示す、まぁ、ある種の契約書みたいなものが、護廷十三隊の書類を総括する一番隊の副隊長である私の手元に届けられたんだけど……。
定型通りの箇所に『更木剣八』『草鹿やちる』と書かれているはずの、その書類には、どう見ても『絵』にしか見えない、実に芸術的な『文字』が踊っていた。
「しばらく来れないってどういうことだ?!」
相変わらず雨乾堂にこもっている十四郎に、ここしばらくの予定を告げたら、もの凄い剣幕で叫ばれる。
その横では定位置に座り込んだ春水が、片眉を跳ね上げて、ボクも不本意だよって事を伝えてきている。
雨乾堂に居る最後のひとり、海燕はとりあえず我関せずの姿勢でお茶を煎れていた。
「あはは……いや、こればっかりはどうしようもなさそうなの。仕事だから」
海燕が煎れてくれたお茶を手元に引き寄せながら、なんて言って説得しようかなーと思う。
できるだけふたりの側に居たいのは、私だって同じだ。
けど現実的な問題として、比較的自由に己の行動を決定できる隊長職のふたりと違って、私は隊長のスケジュールに従う立場の副隊長で、なかなか融通がきかない。
おまけに、責任の重い雑務も回ってくる一番隊。
だから、ふたりにとっては就業時間外になるはずの時刻でも、私は執務室に缶詰めになる時もある。
ふたりともそれを分かっているから、私の側に居る時間を少しでも多くしたいと言う。
私と離れたくなくて、私の事を好きだよって、伝わってくるのは凄く嬉しい。私だって、出来る事ならたくさん側に居たいと思っているけど。
仕事は、どうしても放りだせない。
私が経済的に自立していなければ、私を養おうとしてもすでに親族への孝行で精一杯なため私を養えないだろう十四郎と、給料を無駄遣いしてもまだ実家に財産があるため私を余裕で養えてしまうだろう春水の間に、気まずい空気が流れてしまう。
私は十四郎と春水の間に、そんな不和を突き付けたくない。
理想は、今の内にしっかり働いて貯金して、職を辞してもその貯金で将来の自分自身を養い、ふたりに何の負担も掛けずにその側にいる事。
これからもずっと、その側に居られる事。
だから今現在、少しだけ……しばしの間だけ側を離れるのを我慢できる。
でも、ふたりは私がそんな事を考えているとは思わないだろう。私の身体の事はなにひとつ話していないから、私が将来的に護廷十三隊に居られなくなる日を覚悟しているなんて、考えも出来ないだろう。
だから、私が時々、ふたりよりも仕事を優先させる事にどうしても不満が募る。
その度に仕事内容を話して理解を願ったり、なだめたり、時にはひたすら頼み込んだり……その都度『説得』する必要があった。
今回の件も、そのパターンだ。
私が今回はなんて切り出そうかと唸っていると、側に控えていた海燕が口を開いた。
「さん、それってアレ? 新しく就いた十一番隊の隊長と副隊長の問題、やっぱりさんとこまで回ったんだ?」
「……どういう事だ。」
「志波くんが知っていて、ボク達が知らない問題って事は、副隊長職に関する事?」
春水は相変わらず察しが良い。
「今回の私の仕事は書類の問題よ。どうもあのふたり、流魂街出身だってのもあるんだろうけど、文字がまったく書けないみたいなの」
「それは……あの小さい子は仕方ないんじゃないか?」
「待って浮竹、は『ふたり』って言ったよ……つまり、そういう事なのかな?」
常識という思い込みにハマりそうだった十四郎に、すかさず突っ込む春水のやりとりを見遣りながら、お茶を一口。
ありがとう海燕、美味しいです。
「京楽隊長の言う通り、ふたりともみたいです。浮竹隊長」
進言した海燕の言葉を、十四郎は聞き終えて渋い顔になった。
「……もしかして、隊長と副隊長の署名が必要なすべての書類が、十一で止まっているのか? 此処最近、俺のとこに回ってくるのが減ってるんだが……」
「その通りよ、十四郎。今は十二と十三の書類仕事が減ってるだろうけど、しばらくしたらどっと増えるからね。海燕も覚悟しておいて」
「了解。今も俺の権限で出来る限りさばくようにしてます。ちょっと前から噂になってたんで」
「待て、海燕、噂って何の噂だ?」
「浮竹はともかく、ボクも知らないんだけど」
「副隊長の間での噂ッスよ。十一で書類が行方不明になるって言う」
「そうなのよ。あまりにも酷い文字だったから、十一から何処にも書類を回せなくなって……。それに気が付いた射場さんが、気を利かせて早めに私のとこに相談にきてくれたの。早めに分かって助かったわ。どっちみち私に回ってくる問題だし、ふたりに文字を教えるにしても、早くする方が良いに決まってる」
射場さんの気遣いには、本当に感謝だ。
「だ、だが、しばらく来れないとはどういう事だ? ふたりに文字を教えるだけだろう?! 何故、でなければならないんだ! 他の副隊長だって居るだろう!」
「あー……それは」
非常に不本意ながら。
「浮竹隊長、今の副隊長の中で、隊長格並の霊圧はさんだけっスよ……今度の十一の隊長って、確か物凄い霊圧の人だから」
「つまり、教える側が教わる側の霊圧に当てられてるのかい?」
春水は既に諦めの境地に達した表情になっている。
十四郎は、まだ不本意そうだ。
「春水の言う通り。でもまさか、それで他の隊の隊長を『文字を教える先生』として引っ張ってくる訳にはいかないでしょう? それぞれの隊を率いる隊長の役目があるんだから」
「……つまり、以外に誰も引き受ける事のできない用件なのか」
「そうなの」
隊長は駄目、下位の席官や平隊員では話にならない。副隊長や上位の席官は剣八の側には居られるだろうけど、力がある故に実力差を測ってしまって遠慮がちになってしまうし、亡くなった先代十一番隊隊長と親しくしていた者も居るからこの話を持ちかけるのは難しい。
私が行くしかないのだろう。
そう納得してくれた十四郎と春水に、私は微笑む。
「なるべく早く、終わらせるようにがんばるからね」
「ボク、時々は覗きに行くよ。の顔をずっと見れないなんて耐えられそうにないし」
「俺も床上げして行くぞ」
「浮竹隊長、早く床上げしたいのなら、きっちり薬飲んでください」
またうっかり飲み忘れてるの?
「……十四郎は薬をしっかり飲んで、元気になるまで来ちゃ駄目」
私がじっとりと睨み付けると、十四郎は渋い顔で頷く。
その横で私の言葉に感謝の視線を向ける海燕、そして可笑しそうに忍び笑う春水。
しばらく此処に居られないのは、やっぱり淋しいなと思った。
「でも仕事は仕事! しっかりやらなきゃ!!!」
ばさり、と大量の紙を机の上に置きながら、私は気合いを入れるつもりで言い切る。
剣八とやちるちゃんの教育を始めると言っても、私の通常業務の書類はいつも通りあるから、まずは午前中に執務をなるべくたくさん進めておいて、午後に残った書類を三席以下に振り分ける。その後に十一番隊の方へと行く予定だ。
午後になって、やり残した執務の事を気にしながら満足な教育をできるとは思えない。
いつも以上にしっかりと執務を行なわなければ駄目だろう。
なにしろ昨日見たあの『文字』の凄さときたら!
もしかしたら、あのふたり、もとから文字を覚える気がないのだろうか。
「……物で釣るのもありかな?」
やちるちゃんのご褒美には、甘いものが良いだろう。やっぱり小さな女の子だし、あと何か好きなお菓子があったはずなんだけど、私はそれを読んだはずなんだけど残念な事に忘れてしまったので、色々買ってあげて好みの物を確かめよう。
剣八には……仕合、とか?
あ、それ、面白いかも。
命に関わらない程度なら、そういうのもありだよね。
卍解しなければ、体調に何の支障もないし。
「うん、良い考えかも」
私はその思い付きに満足し、気分良く執務を処理し始める。
春水や十四郎に会う回数が減るのは残念だけど、今日から始まる刺激的な日々も楽しまないと損だよね、と思って。
「……これは……不味すぎる……」
つい先日、十一番隊の隊長と副隊長の就任を迎えたばかりの剣八とやちるちゃんが、己の就任を了承した事を示す、まぁ、ある種の契約書みたいなものが、護廷十三隊の書類を総括する一番隊の副隊長である私の手元に届けられたんだけど……。
定型通りの箇所に『更木剣八』『草鹿やちる』と書かれているはずの、その書類には、どう見ても『絵』にしか見えない、実に芸術的な『文字』が踊っていた。
「しばらく来れないってどういうことだ?!」
相変わらず雨乾堂にこもっている十四郎に、ここしばらくの予定を告げたら、もの凄い剣幕で叫ばれる。
その横では定位置に座り込んだ春水が、片眉を跳ね上げて、ボクも不本意だよって事を伝えてきている。
雨乾堂に居る最後のひとり、海燕はとりあえず我関せずの姿勢でお茶を煎れていた。
「あはは……いや、こればっかりはどうしようもなさそうなの。仕事だから」
海燕が煎れてくれたお茶を手元に引き寄せながら、なんて言って説得しようかなーと思う。
できるだけふたりの側に居たいのは、私だって同じだ。
けど現実的な問題として、比較的自由に己の行動を決定できる隊長職のふたりと違って、私は隊長のスケジュールに従う立場の副隊長で、なかなか融通がきかない。
おまけに、責任の重い雑務も回ってくる一番隊。
だから、ふたりにとっては就業時間外になるはずの時刻でも、私は執務室に缶詰めになる時もある。
ふたりともそれを分かっているから、私の側に居る時間を少しでも多くしたいと言う。
私と離れたくなくて、私の事を好きだよって、伝わってくるのは凄く嬉しい。私だって、出来る事ならたくさん側に居たいと思っているけど。
仕事は、どうしても放りだせない。
私が経済的に自立していなければ、私を養おうとしてもすでに親族への孝行で精一杯なため私を養えないだろう十四郎と、給料を無駄遣いしてもまだ実家に財産があるため私を余裕で養えてしまうだろう春水の間に、気まずい空気が流れてしまう。
私は十四郎と春水の間に、そんな不和を突き付けたくない。
理想は、今の内にしっかり働いて貯金して、職を辞してもその貯金で将来の自分自身を養い、ふたりに何の負担も掛けずにその側にいる事。
これからもずっと、その側に居られる事。
だから今現在、少しだけ……しばしの間だけ側を離れるのを我慢できる。
でも、ふたりは私がそんな事を考えているとは思わないだろう。私の身体の事はなにひとつ話していないから、私が将来的に護廷十三隊に居られなくなる日を覚悟しているなんて、考えも出来ないだろう。
だから、私が時々、ふたりよりも仕事を優先させる事にどうしても不満が募る。
その度に仕事内容を話して理解を願ったり、なだめたり、時にはひたすら頼み込んだり……その都度『説得』する必要があった。
今回の件も、そのパターンだ。
私が今回はなんて切り出そうかと唸っていると、側に控えていた海燕が口を開いた。
「さん、それってアレ? 新しく就いた十一番隊の隊長と副隊長の問題、やっぱりさんとこまで回ったんだ?」
「……どういう事だ。」
「志波くんが知っていて、ボク達が知らない問題って事は、副隊長職に関する事?」
春水は相変わらず察しが良い。
「今回の私の仕事は書類の問題よ。どうもあのふたり、流魂街出身だってのもあるんだろうけど、文字がまったく書けないみたいなの」
「それは……あの小さい子は仕方ないんじゃないか?」
「待って浮竹、は『ふたり』って言ったよ……つまり、そういう事なのかな?」
常識という思い込みにハマりそうだった十四郎に、すかさず突っ込む春水のやりとりを見遣りながら、お茶を一口。
ありがとう海燕、美味しいです。
「京楽隊長の言う通り、ふたりともみたいです。浮竹隊長」
進言した海燕の言葉を、十四郎は聞き終えて渋い顔になった。
「……もしかして、隊長と副隊長の署名が必要なすべての書類が、十一で止まっているのか? 此処最近、俺のとこに回ってくるのが減ってるんだが……」
「その通りよ、十四郎。今は十二と十三の書類仕事が減ってるだろうけど、しばらくしたらどっと増えるからね。海燕も覚悟しておいて」
「了解。今も俺の権限で出来る限りさばくようにしてます。ちょっと前から噂になってたんで」
「待て、海燕、噂って何の噂だ?」
「浮竹はともかく、ボクも知らないんだけど」
「副隊長の間での噂ッスよ。十一で書類が行方不明になるって言う」
「そうなのよ。あまりにも酷い文字だったから、十一から何処にも書類を回せなくなって……。それに気が付いた射場さんが、気を利かせて早めに私のとこに相談にきてくれたの。早めに分かって助かったわ。どっちみち私に回ってくる問題だし、ふたりに文字を教えるにしても、早くする方が良いに決まってる」
射場さんの気遣いには、本当に感謝だ。
「だ、だが、しばらく来れないとはどういう事だ? ふたりに文字を教えるだけだろう?! 何故、でなければならないんだ! 他の副隊長だって居るだろう!」
「あー……それは」
非常に不本意ながら。
「浮竹隊長、今の副隊長の中で、隊長格並の霊圧はさんだけっスよ……今度の十一の隊長って、確か物凄い霊圧の人だから」
「つまり、教える側が教わる側の霊圧に当てられてるのかい?」
春水は既に諦めの境地に達した表情になっている。
十四郎は、まだ不本意そうだ。
「春水の言う通り。でもまさか、それで他の隊の隊長を『文字を教える先生』として引っ張ってくる訳にはいかないでしょう? それぞれの隊を率いる隊長の役目があるんだから」
「……つまり、以外に誰も引き受ける事のできない用件なのか」
「そうなの」
隊長は駄目、下位の席官や平隊員では話にならない。副隊長や上位の席官は剣八の側には居られるだろうけど、力がある故に実力差を測ってしまって遠慮がちになってしまうし、亡くなった先代十一番隊隊長と親しくしていた者も居るからこの話を持ちかけるのは難しい。
私が行くしかないのだろう。
そう納得してくれた十四郎と春水に、私は微笑む。
「なるべく早く、終わらせるようにがんばるからね」
「ボク、時々は覗きに行くよ。の顔をずっと見れないなんて耐えられそうにないし」
「俺も床上げして行くぞ」
「浮竹隊長、早く床上げしたいのなら、きっちり薬飲んでください」
またうっかり飲み忘れてるの?
「……十四郎は薬をしっかり飲んで、元気になるまで来ちゃ駄目」
私がじっとりと睨み付けると、十四郎は渋い顔で頷く。
その横で私の言葉に感謝の視線を向ける海燕、そして可笑しそうに忍び笑う春水。
しばらく此処に居られないのは、やっぱり淋しいなと思った。
「でも仕事は仕事! しっかりやらなきゃ!!!」
ばさり、と大量の紙を机の上に置きながら、私は気合いを入れるつもりで言い切る。
剣八とやちるちゃんの教育を始めると言っても、私の通常業務の書類はいつも通りあるから、まずは午前中に執務をなるべくたくさん進めておいて、午後に残った書類を三席以下に振り分ける。その後に十一番隊の方へと行く予定だ。
午後になって、やり残した執務の事を気にしながら満足な教育をできるとは思えない。
いつも以上にしっかりと執務を行なわなければ駄目だろう。
なにしろ昨日見たあの『文字』の凄さときたら!
もしかしたら、あのふたり、もとから文字を覚える気がないのだろうか。
「……物で釣るのもありかな?」
やちるちゃんのご褒美には、甘いものが良いだろう。やっぱり小さな女の子だし、あと何か好きなお菓子があったはずなんだけど、私はそれを読んだはずなんだけど残念な事に忘れてしまったので、色々買ってあげて好みの物を確かめよう。
剣八には……仕合、とか?
あ、それ、面白いかも。
命に関わらない程度なら、そういうのもありだよね。
卍解しなければ、体調に何の支障もないし。
「うん、良い考えかも」
私はその思い付きに満足し、気分良く執務を処理し始める。
春水や十四郎に会う回数が減るのは残念だけど、今日から始まる刺激的な日々も楽しまないと損だよね、と思って。
