邂逅編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ

from scratch 02

 迂闊だった。

 春水に手を引かれて瀞霊廷の中に入った途端、なんとも慌ただしい雰囲気を感じ取った。それは私だけではなく、春水も感じたようで「何か、あったのかな?」と小声で呟いた。その途端。
 空気を揺るがす、鳴き声が聴こえて。
「……!」
 私はその鳴き声に驚いて、つないだままだった春水の手をぎゅっと握ってしまった。冷汗が出てきそうだった。あの鳥さんが未だに封印されずに在って、瀞霊廷の空をぐんぐんと気持ち良さそうに飛び回っているのだ。
 感じた慌ただしさは、あの鳥さんを何とか封印し直そうと奔走している人達の喧噪のようで。
「春水、あれって」
「あぁ……参ったね、どうも」
 私の問いかけに春水は空を見上げたまま嘆息し、苦笑したまま私を見下ろした。
「ちょっと、屋敷までゆっくり歩いていられないみたいだから」
「う、うん」
 私も、まさか鳥さんに乗っている状態で顔を見られたとは思えないけど、とっても後ろめたいので、歩いていられないのに賛成だった。
「抱えて走るよ」
「え? ……って、嘘っ?! 待って春水!! 私、重いからっ!」
 意味を汲み取れず棒立ちになった私を、あっさり抱き上げて、いわゆるお姫さまだっこの状態で春水に走り出されて大いに慌てた。こんな事されたの結婚式以来で、ちょっと嬉しいような気持ちもあるけど、でもこれって体重がばれてしまうのよ! せめてあと1キロ、否、3キロ痩せてから! 
「きゃあっ?!」
 思わず叫んでしまったのは、しっかり抱きかかえてくれていた腕の力がいきなり抜けて、春水の腕の中から落ちそうになったからだ。とっさに私から春水の体に腕を廻して抱きついてしまった。ワザとだ! コレって絶対にワザとだ!!! 
「そのまましっかり掴まっててよー。落っこちないように。あとは重くないから。むしろ、軽いくらいだし」
 走りながらのんびりと話す春水を、かなり、恨めしく思った瞬間だった。






 屋敷にたどり着いてからが、また大変だった。
 私を抱きかかえたまま屋敷に帰宅した春水を、使用人みたいな人達がどもりながら「お帰りなさいませ」と言ったり、もしくは目を見開いて絶句しながらも、身に着いた習慣に従ったようにぎくしゃくと頭を下げてお出迎えをしてくれた。そんな皆さんに向かって春水が言った第一声が「この娘は。今日からボクの屋敷で過ごすから、そのつもりで」だった。
 私はお手伝いさんの皆さんに、心からご同情申し上げたい。
 仕えている家の息子さんが、いきなりどこの誰かもわからない娘を抱きかかえて連れてきたなんて……。
 けど、そんな状態でもお父さんとお兄さんは出払っていて不在で、お母さんは在宅していると告げる仕事はしっかりするあたり、この屋敷にいる人達は胆が座っているのだろう。『京楽』は武芸に秀でた家柄だったかな、使用人やお手伝いさんにもそういう家風が浸透しているように思えた。
 私は春水に連れてきてもらった屋敷の一室で畳にへたりこみながら、知識に実感が伴っていくのをしみじみと感じた。
 そんな私の側に、春水も座り込んできた。
「春水って、お坊っちゃんだったんだねぇ……」
 貴族の次男坊だと、知っていたけど。知ると感じるのでは大違いだ。
「そんなにお坊っちゃんじゃないつもりだけど」
「……自覚、持ってよ」
 深く深くため息を吐いてしまう。
 自治領の中に何件ものお屋敷があって、そのお屋敷ひとつひとつが家族それぞれの部屋になってるなんて、どう考えても普通じゃない。家族と言う概念が、ひとつ屋根の下で過ごす事を前提にしていなくて、その家系の領地の中で過ごしている事を前提にしてるのだ。家族に会うためには、その人が在宅かどうか、それぞれの使用人を使いに出して確かめてから、それぞれの屋敷まで出向かなくてはならないのだ。
 私を「ボクの屋敷で過ごすから」と言い切った春水の言葉は、本当にそのままの意味だった。
「ところで、に頼みたい事なんだけど」
「なに?」
 もう何を聞いても驚かないぞ、と思う。
「この屋敷に居て欲しいんだ。ただしボクにとっての、側を離れていたくない人として」
「……どういう意味?」
 良く判らなかったので、再度説明を乞う。
「ボク、けっこう遊んでいて」
「あぁ……そうなんだ」
 やっぱりこの頃から女の子大好き! って性格なんだ。
 納得して、それで? と続きを更に乞うと、春水は目を見開いて驚きの表情になった。彫の深い顔立ちなせいか、表情の動きが大きくて、そんな彼を見ると和んでしまう。
「幻滅しないの? その……身体の関係のある人が複数いるんだけど」
「しないよ。恋愛は個人の自由だと思うし、何より、春水はその人達に酷い事したり、騙している訳じゃないんでしょう?」
「え?」
「結婚詐欺とか強姦とか」
「ごっ!」
 あ、畳にめり込んだ。
「しないよっそんな事!」
 絶句して畳に突っ伏した後、一拍の間を置いて、がばっと勢い良く上半身を起した春水は力一杯反論してくれた。微妙に頬が赤い。歳を重ねる前の、若い反応が妙に可愛くて、そしておかしくて、私はにっこりと笑ってしまう。そんなに慌てる事ないのに。
「もちろん、私も春水がそんな事をしているとは思ってないよ」
「……どうも」
「うん。それで?」
「……今までボクの勉強は、屋敷に先生を招いたり父上や兄上が暇だったら2人に習って……いくはずだったんだけど、さっきも言ったように、ボク、けっこう遊んでいて」
「勉強をサボってたんだ」
「うん。半分以上」
 半分かぁ。予想よりはマシかな。ほぼすべてサボり倒してても驚かないつもりだったのに。
「そういう事して、春水は怒られないの?」
「怒られてる。でもそれでもいいって思ってた。そうしたら今度、さっき話した真央霊術院に、無理矢理入学させられそうなんだ。寮学生として」
 それに参っているんだ……という表情を隠さない春水を、私はまじまじと見つめてしまった。
 将来、隊長格にまで登り詰めるはずの男の子の、勉強が嫌で女遊びが好きだと公言してはばからない子の、その表情のなかで、瞳だけに翳りが見えたのは、気のせい? 
「春水は、入学したくないの?」
「……うん」
「それが私に頼みたい事と、何の関係があるの?」
「さっきも言ったけど、ボクにとっての、側を離れていたくない人になってこの屋敷に居て欲しい。ボクはと一緒じゃなければ、入学しないって周囲に言う」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「駄目かな? は何もしなくて良いんだよ。ただ、この屋敷に居てくれれば良いよ。ボクが周囲にわがままを言ってるだけで、はボクが巻き込んでいるだけだし……。周囲にはボクに無理矢理連れて来られたって言っても良いよ?」
「だ、だめっていうか……えっと」
 頭の中が混乱して、どうにも口が上手く動かなくなった。私は此処に置いてもらうほうが良いけど、そのせいで春水が入学しないままなんて絶対に駄目だ。でも、今の私に春水以外に頼る人がいないのも事実だ。おまけに鳥さんの封印を解いてしまった事が私だと知れたら、どんな風に扱われるのか……それすらも判らなくて。
 逡巡して、私は春水の顔を見つめ直した。そうしたら、春水も私の事を真剣に見つめているのを見てしまった。
 本気で、イヤなんだ……。
 不味い。春水の頼みを引き受けたくなってしまった。
 ……い、良いよね、受けても。きっと最終的には山じいあたりが出てきて春水を引っ張って行きそうだし。それまでに何とかこの世界で暮らす手立てを見つければ。
「……わかった。春水の頼み、受けるよ」
 私の言葉に、春水は良かった……という顔になった。
、ありがとう」
「お礼を言うのは私だよ、此処に住まわせてもらうんだから。ただし、これだけはハッキリ言っておくね」
「なんだい?」
「私が春水に無理矢理連れて来られたと、言っても良いなんて言わないで。自分自身を貶めても良いなんて、さびしい事を、言わないで。私は、周囲にとっての春水の評価を貶めたくないから、私自身が望んで此処に居るって言う」
 置いてもらって、助けてもらって、その上に迷惑なんて掛けられない。だからこれは、私にとってどうしても譲れない事だった。 
「それでね、私は春水の『側を離れていたくない友達』になるよ。それでいいよね?」
 私の言葉を聞いた春水は一瞬だけ呆然として、次に笑って頷いた。






 私の『友達』提案を春水は汲んでくれたけど、やはりいきなり姫だっこ状態で対面したのが不味かったんだと思う。
「つくづく、迂闊だったのよ……」
「うん。参ったね、どうも」
 夕餉を春水とふたりでいただいて、お風呂は屋敷内に複数あるから同時刻に別々の場所で入る事になって、お風呂をいただいた後に寝間着変わりにと使用人の方に差し出された着物を纏い、さて寝ようかという段階になって気が付いたのだ。
 否、気付かされたと言うべきなのかも。
 お風呂上がりの私を、使用人の女性が案内してくれた寝所は、春水の寝所だった。
 案内されて、ふすまを開けられて、見えたお互いの顔が、微妙に引きつっていたと思う。
「一応、確かめるけど。いつもこんなに大きい布団で寝てるの?」
「まさか。ボクひとり分の大きさの布団だよ」
「そうよね。つまり完璧に、誤解されてるのね」
 きっと、この屋敷に居る使用人全員に。
「うん……ごめんよ。今日はボクが外で寝るから」
「それは駄目よ、お風呂上がりで身体を冷すなんて、体調を崩すかもしれないじゃない。この際だから気にしないわ、一緒に寝てしまいましょう」
「へ?! ……い、いいの?」
「うん。良いよ。それに、今日はなんか色々あったせいで疲れたのかな、私、今すごく眠いの。もう寝よう?」
 実際に、頭がぐらぐらするくらい眠かった私は、春水の返事を聞く前にその腕をとって布団に横たわった。
 そうしてそのまま意識は暗転、熟睡したんだと思う。

「ん……?」
「おはよう、
 気が付いたら、もう朝だった。頭も身体もすっきりと、疲れがとれている。
「おはよう……?」
 朝の挨拶に、返信しようとして思い出す。寝る前の私がとった言動を。
「しゅんすい?」
「そうだよ」
 私達は今、同じ布団の中で寄り添い、抱き合って寝ている状況だった。
「あのね、
「ん?」
「人を信用できるのは良い事だと思うけど、はかなり、信用しすぎるような気がするから、これから気を付けて」
「へ?」
「……ボクが何を言いたいのか、わからない?」
「う、うん……ごめん。気をつけるって、何を?」
 使用人の皆さんに誤解された事は、これから誤解を解けば良いだけの事で、わざわざ気をつけるような事でもないし。お布団の中で抱きしめ合いながらのんびりと会話をしているのにも、少ししたら慣れたと言うか、春水ならこれもありかなって気になったので、まぁいいかと思うし。それと春水が言う「信用しすぎを気をつける」っていう事が、私の中で繋がらなくて困ってしまう。
 困って、弱り果てて寄り添った春水の体温が、あちらに残してきた赤ちゃんみたいに温かいと気が付く。
 そうしたら急に愛しさが増して。
?!! なにをしてるの!」
「んー……? 春水をぎゅってしてるの。あったかくてね、私の赤ちゃんみたい」
「………………あぁ、そうなの」
「うん。ホント、あったかいねー春水って。体温が高いのかな?」
 抱き心地は正直言って赤ちゃんのように柔らかくもないんだけど、ぬくぬくしていると愛しいなぁって気持ちになる。人肌ってホッとする。この世界に吹き飛ばされて入り込んだ私は寄る辺もなかったのに、優しい人に会えてこんなに安心できる場所に居られるなんて、物凄くありがたい事だった。
 意識はしっかり醒めてしまったけど、もうしばらく、春水と一緒にお布団の中に居たいと思った。

 春水と2人一緒に朝ご飯を食べて、食べ終えた膳を使用人の皆さんが片付けてくれた後、2人きりの室内で「さて、誤解をどうやって解こうか?」と春水に言われて私は即答した。
「春水が、今日も女性のところに遊びにでかければ良いのよ」
「それは……ボクも考えたけど、の側を離れる事になる」
 なるほど、私の側を離れる事は、周囲に言う『わがまま』に真実味がなくなる事になる……そう懸念しているんだ。
「それなら大丈夫よ。いつもより早く春水が『私のいる屋敷』に帰って来てくれれば良いと思う」
「あー……なるほど、が此処に居るから、頻繁に帰ってくる……つまり、側を離れがたいと思っているって事になるのか」
「そうそう。それに、春水だっていつまでも屋敷にいたら息がつまるんじゃない? 今までずっと、遊びつづけてたのに、急に止める事になったら耐えられる?」
「たしかに、それはちょっと地獄かも」
「そうでしょ」
 私がほんの少し、春水をからかうつもりで言った質問に、苦笑して参ったなぁとでも言うように、春水は同意した。そういう所は、素直というか馬鹿正直なぐらいだ。
「でもさ、は、それでいい? ボクが出かけると、この屋敷にひとりになっちゃうよ?」
「ひとりでもやる事があるから、気にならないと思う」
「え?」
「実は、着物をひとりで着る練習がしたくて……」
 寝間着くらいなら良かったのだ。浴衣とか、旅館で着たような物を思い出しながら着るだけで事足りたから。
 けれどこの瀞霊廷での普段着になっているような、女性用の着物の着付けの仕方はまったく出来なくて、今朝差し出されたヤケにきらびやかな着物一式は頑として断った。それに着せてもらったとしても、成人式の時みたいに胴がきつくて歩くのも辛くなるに決まっている。
 今、私が着ている着物は春水が子どもの頃に着ていたお古の着物……それでも充分に綺麗で布地とか触り心地が良い……死覇装にも似た藍色の袴だ。袴は幅広のズボンみたいな感じで動きやすかった。
 しかしこの着物すら、私は春水に着付けしてもらわなければ着れなかったのだ。
 その春水は、私に着付けした後、自分自身で鮮やかな青の袴を選んで着ている。陽に灼けた精悍な肌に、鮮やかな色は良く似合っていて格好良かった。
「別に、ボクはいつでもに着せてあげるけど?」
「……そんなの小さな子どもがしてもらう事じゃない……」
 情けなくて恥ずかしくてたまらないのだ。
「じゃ、着付けの仕方がわかる人に、ときどきの様子を見てもらう。そうじゃないと、着崩したままでもう一度着れないなんて事になりそうだ」
 苦ッ……その通りです。
「よろしくお願いします。……じゃあ、今日はもう出かける?」
「そうだね」
 そういう事になった。





 春水の屋敷で過ごし始めてから一週間は、実にのんびりとしていた。
 春水のご家族が、あの鳥さんの関係で領地外に出払ってしまっていたのでご挨拶に行く事もなく、また、春水があの『わがまま』を既に周囲に言っているのかどうかもよく判らなかった。
 夜は、あいかわらず一緒の布団で寝ている。これはもう誤解が完全に解かれるまで、どうしようもないのかもしれない。
 私は春水が屋敷に居ない間、必死になって着付けを学び続けた。
 幸いというか、袴のみに焦点を当てていたおかげでぐんぐんと上達し、一週間目にして自力で袴を着れるようになった。明日から女性用の物にも挑戦してみようかと思う。
 春水は朝起きてから私に似合う袴を選ぶのが楽しみになったようで、私を少々呆れさせた。この頃から着道楽だったみたいで、袴の色に合わせたこまごまとした小物の類を出かけた先で毎日買って来て私にくれるのだ。
 おまけに女性と遊んで寝てきているはずなのに、昼に出て夕方には帰ってくる状態。あんまり早く帰ってくるから心配になってしまって、6日目にはあの『わがまま』の約束も一瞬忘れて、出かける時の玄関先で「私の事はあんまり気にせず、もっと遊んできていいのよ?」と言ってしまった。春水はその言葉に吹き出して「ボク、ちゃんと満足するまで遊んでるよ」と言い返した。
 使用人の皆さんはそんな私と春水を不思議そうに見ていた。

 そして8日目の昼過ぎに、その人達は来た。
「……これを、私に……ですか?」
 春水の屋敷の一室、これまで入った事がない部屋は他の部屋に比べて豪華な作りで「お客様用」だと知れた。本日は練習のために昼から女性用の着物の着付けを屋敷の奥でしていた私の到着をかしこまって待っていた人達……けっこう良い歳の大人の人達がいっせいに私に頭を下げてキンキラに光る『お土産』を差し出している。
 昔から瀞霊廷にいただろう人達が『お客様』で、私が『この屋敷の代理主人』として対面しているなんて、不思議を通り越して滑稽だった。
 しかも、その人達の言い分がまた奮っている。
 曰く『貴方は春水様の覚えもめでたい方』で、『是非、私どものお引き立てを春水様、ひいては現当主様に進言していただきたい』と言う事を実に装飾した言葉で話し、最後の方になって『もし真央霊術院に春水様が入学した暁には私どもの息子と仲良くしていただきたい』と来るに至っては、呆れを通り越して怒りが湧いた。
 思い出すのは、翳っていた瞳。
 行きたくないと、言っていた声。
 人を信用出来るのは良い事だと思うけど、信用しすぎるのは、気を付けてとも言っていた。
 お土産を差し出した人達を怒鳴らず、引っ叩く事もなく、笑顔で「私の進言などを春水が聞いてくれるとは思いませんが、それでもこちらを戴いてよろしいのですか?」と対応できた事は、後から思うにギリギリだったのだろう。着ていた女性用の着物が動きにくかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。
 その人達が退出していった後、怒りのあまり、どっと涙がでてきた。
「……っうー……」
 涙越しに睨み付けながら見た『お土産』は、ひどく醜く映った。

 その日、帰宅した春水にあの人達の事を話そうとしたら、それよりも前に春水が私を抱きしめてきた。
「え? なに……?」
「ごめん、。……ボク、まさかにまで面会してくるとは思わなくて……突然あんな人達が来て、きっと、嫌な思いをさせたよね……。本当にごめんよ」
「……春水」
 優しい言葉に、今度は切なくなって泣いてしまいそうだったけど、何とか耐えた。大丈夫だよと伝えるために、春水を抱き返した。
 あの人達が来た事を、使用人の人達から既に聞いてきたようで、春水の口調はとても苦い。
 やはり、春水はあんな人達に何度も逢った事があるのだ。
「ごめんは私の方だよ。受け取るのを断ってかまわない人なのか判らなかったから、とりあえず貰っちゃったんだけど……」
「それは……かならず約束を取り付けるって言った?」
「まさか。私が進言しても春水は聞いてくれないと思うけど、それでも貰っていいですか? って、断っておいたよ。口約束でも怖いもの」
「それなら上出来。アレは気兼ねなくの財産にしてくれていいから」
「え?! ……で、でも」
「実はね、ボクが遊ぶためのお金も、ほとんどそういうのをあてがってる」
「……マジで?」
「うん」
 春水の言葉に、私は吹き出してしまった。
「ボクが貰った物を、好きに使ってどこが悪いのさ。も好きにして良いからね」
 飄々としたその口調に、私は笑いながら頷いた。

 でも。
「このままじゃ、駄目だよ……ね」
 湯舟に浸かりながら、独り言を呟いてしまう。
 あんな人達の言う通りになるつもりはないけれど、春水は霊術院に入学する事になるのだ。そこにはきっと浮竹さんがいるだろうし、春水にとって良い事もあると私は確信している。けれどいつ春水が入学すれば浮竹さんと出会えるのかなんて、私に判るはずもなく。それは自然の流れに任せるしかない。
 せめて春水が入学するまで、あんな人達から春水を守る事くらいは出来ないだろうか? と、私はこの時から考え始めた。

END: from scratch 02

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This fan fiction by ぞら
初出: 2005年12月23日

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