邂逅編 BLEACH異世界トリップ夢シリーズ
ringing 05
まだ、名前を知らない。
満天の星、地には花、そこに在る私の斬魄刀……彼等の名前を知らない。
あの漫画で主人公だった一護が特別なのは解ってる。私が、まだまだ弱いという事も分かっている。
それでも。
「名前、知りたい」
星と花が満ちた夢の中で、私はポツリと呟いた。
私の斬魄刀だと名乗った彼等には、今日はまだ逢っていないけど、この声が届く事を願った。
「知りたいの……、どうしても……護りたいの」
虚は、霊力の高い魂を好む。
つまり、真央霊術院の一回生は格好の獲物なのだ。そこそこ高い霊力、まだまだ未熟な実力、どれをとっても虚にとって美味しすぎるセッティング。だからこそ、六回生が指導にあたるんだろうけど。
それで、心配するなと言われても、簡単に頷ける訳がないじゃない。
「護りたいの……」
仲良くなったクラスメイトには、私より『鬼道』が得意な子がたくさん居る。『白打』で戦う事を得手としているクラスメイトだって何人も居て、『斬術』なら春水と十四郎と私でトップを競っている。
だから、私が一番強いとは思っていない。
けれど、私が一番『速い』のだ。
腕力と霊力と剣術の経験値で春水と十四郎に劣るだろう私が、『斬術』で競っていられるのはふたりより『歩法』が得意で、ふたりより素早く動けるからだと身に染みて分かっている。
わかっている。
もし、虚が現れたのなら、事前にその霊圧を感知できなくても、一番速く動ける私が誰よりも先に虚と対峙する事になるだろうって。
「それで、は、恐くないの?」
「……少し、恐いかな」
出てきてくれた。優しそうで綺麗な男の人。その姿は、一番最初に逢った時から変わらない。
「恐いから、力が欲しいの? ……あぁ、違うね」
「……やっぱり、筒抜けなんだ」
心の中が何もかもバレてしまう斬魄刀とのお付き合いというのは、いささか気恥ずかしい。
恐いだけなら、虚の前に行かなければ良いのだ。
用心して、避難する。それだけで良い。
でも、私は恐いだけじゃなくて、護りたいものがあって。
どんなに恐くても、立ち竦みたくないと願っている。
それは未だに己の斬魄刀の名前すら分かっていない私には、身の程をわきまえない驕った願いだろうけど。
でも、どうしても。
少しでも多くの力を手にして、護り抜きたいと思っている。
そういえば。
「あ……そうだ。あの時、助けてくれて……私の赤ちゃんを護ってくれて、ありがとう。私……それをずっと、あなたに言いたかったの」
こんな時だけど、ずっと伝えたかった事を、やっと言えた。
そうしたら、その言葉を聞いた途端に彼がとても嬉しそうに、ふわりと柔らかく笑う。
今更だけど、もうひとりと同じ顔の筈なのに、なんて印象が違うんだろう。
「にそう言ってもらえて凄く嬉しい。僕は結局、の赤ちゃんしか救えなかったけど……この世界でがしあわせになってくれればと願ってる」
「もう既に、充分しあわせだよ。良い友達も出来て……護りたいの……。絶対に、護るつもり」
私が最後に力強く言い添えれば、彼は分かっているよと言うように頷いた。
「僕もを助けたい。が護るものを護る手助けをしたい。でも、……は本当に、僕を呼ぶことの意味が分かっている?」
「……どういうこと?」
目が醒めた。
「……」
布団の中で呆然としてしまう。
せっかく『彼』が出てきてくれたのに、私ったら何で起きちゃったのよ……!
「、起きた?」
「春水? もう起きているの?」
布団を被ったまま横を見れば、布団の上で身体を起した春水も、今さっき起きたばかりと言った感じだ。春水はいつも寝乱れて寝間着の襟元が弛んで大きく開いてしまうので、寝起きかどうか直ぐにわかる。子ども体温なみに高い体温だから、自然と熱を逃がそうとするうちにそうなってしまうのだろう。今も、弛んだ襟元が大きく開き、鍛えられた胸元が見えていた。
「ちょっと早いけど、まぁいつも通りの起床時間じゃない? ……やっぱり緊張してるのかねぇ」
ふぅ、と息を吐いた春水の話した事で察してしまった。
もう起床時間って事は、ただ単に時間切れだったのかな……。
残念だけど、こればかりは仕方ないか。
気持ちを切り替えて、私も布団の上で身体を起した。
「私も緊張してるかもしれないけど、がんばろう春水」
「そうだね、がんばろう」
魂葬の授業は、一限目から。ほぼ一日をかけておこなわれる予定だった。
いつも通り十四郎と合流して3人で寮の食堂で朝食をとっていたら、今日に限って色んな人が声を掛けてきた。「がんばれ」とか「気を付けて」とか「しっかり」とか、初めての魂葬の授業に行く私達を気に掛けてくれた言葉をたくさん受け取って、身が引き締まる思いだった。
やはり、負傷者も出ることのある『魂葬の授業』は特別なのだろう。
今までは春水に遠慮してか不必要に近付かなかった先輩達も、今日ばかりはそんな風に優しい。
絶対、無事に帰って来ようと思った。
春水と十四郎も、そう思ったのだろう。いつもよりやや緊張した表情になりつつも、どこか力強い眼差しで笑う。
いつの間にか私も笑えていて、こんな時にこんな風に笑い合える友達が出来た事をしみじみと感謝した。
恐くても、大丈夫だ。
頑張る事に、迷いはなかった。
「十四郎の顔色もだいぶ良くなったね」
食欲もあるみたいで、私と同じくらいの体格なのに、何処に入るんだろう? ってくらい食べている。
「しっかり休ませてもらったからな」
顔色も良くなったから、いつも通りの屈託のない笑顔が嬉しい。
「霊圧も安定してるから安心したよ」
春水も、十四郎の顔色や感じた霊圧にホッとしたようだった。
ご飯をしっかり食べて迎えた一限目、まずは『くじ』を引いた後、仮の斬魄刀の『浅打』と『地獄蝶』を生徒全員が受け取る事から始めて、ありきたりだけど『心得』ってものを先生から聞いた。
それから現世へ赴く門の前まで移動し、今は私達を引率する六回生の先輩達を待っているのだけど。
「やっぱりこれ……ホンモノの刀なんだよね」
受け取った『浅打』の重みをずっしりと感じながら、私は呟いた。
身体を鍛えたし、模擬刀での訓練もしたから重くて戦えないなんて事にはならないだろうけど、それでも元々居た世界ではまず滅多に体感できないことで。
なんだかとても、感慨深い。
「って妙なトコで妙に感心するよね」
同じく『浅打』を手にした春水は、ちょっと可笑しそうに笑った。
「本物ではなかったら、一大事だと思うんだが」
十四郎も笑いながら言い添えてきて、この会話を聞いていた周囲のクラスメイトが可笑しそうに笑う。
そんなに可笑しな事かなぁ?
「だって、やっぱり初めて手にした斬魄刀だし、感慨深いよ」
そうやって話し込んでいる内に、六回生の人達が来た。
『くじ』の模様通りに三人一組になりなさいと言われて、私と春水と十四郎はものの見事にバラバラになる。
けれど幸運なことに、十四郎と組む事になった後の2人が昨日相談を持ちかけた子で、ふたりとも私と春水に向かってこっそり頷いてくれた。十四郎の身体の事を気をつけるとか、頼り過ぎないように……むしろ頼られるように頑張るって意味だろう。相談しておいて良かったと思う。
私と組む事になったのは女の子2人で、どちらとも剣術は中の下だけど鬼道が凄く得意、時々ノートを見せてもらった事もある優しくて気さくな子達だ。今日もよろしくと言うと、こちらこそ!と元気に笑ってくれた。
春水と組む事になったのは男の子2人で、よりによって、今まで避けてきたあの『お土産』を出すような中流〜上流貴族タイプのクラスメイトだった。
うっわぁ……最悪かも。
春水、今日一日の辛抱だよ!と視線を向ければ、春水は力なくへらりと笑った。
……が、がんばれっ。
六回生の人達は、クラス全員が三人一組になったのを見届けると、各自の地獄蝶の用意をと言い。
現世へ赴くための声を待ち、クラスメイト全員分の黒い蝶がひらりひらりと漂って。
【 解錠!】
待ち望んだ声に、黒い蝶がいっせいに青空に舞い上がる。
私達は、それを従えて一歩を踏み出す。
門が開いたその瞬間、少しだけ淋しかったのは、赴く現世が私の故郷ではないからだろう。
そもそも時代も違うから、夜に浮かぶ電灯はないし、朝になって陽に照らされて伸びる電柱の影もない。
「残念。懐かしむ事もできないのかも……」
私が小さく呟けば、側に居た一緒の組の子達は不思議そうに首をかしげる。どうしたの?と問われたけれど、答えようもなくて、何でもないと微笑んだ。
だって、今は、此処が私の居場所だから。
笑いながら、頑張る事ができるんだよ。
たどり着いた現世の青空も、尸魂界に劣らず澄んでいて綺麗だった。
まだ、空気の汚れていない空って、こういう感じなのだろう。高く澄んで突き抜けるような空と、美味しい空気って言うのかな、身体を動かすことが気持ちが良い。
「……魂葬してなかったら、ピクニックみたい」
私は2人目を魂葬し終えて(たぶんこれで私の担当は終わりだろう)しみじみと呟いた。
お昼になると持参したお弁当片手に、いつも通り私と春水と十四郎で座りこんで、本当にピクニック状態になってしまう。
見渡せばクラスメイト全員が、今日の一番の話題としてこの魂葬の授業の事を話すのに夢中だ。春水を注視する人が少なくてホッとする。ちらほらこちらを見遣る人もいるけど入学したての時と比べたらぐっと少ないから、クラスメイトだしそろそろ春水に見慣れて来たのかもしれない。
「……こんなにのんびりしていて良いのかなぁ」
もぐもぐとご飯を食べながら、午前までの感想はそんな事しか浮かばなかった。
『浅打』の柄で魂魄の額を押して魂葬終了、繰り返す事の2回、割とあっさり終わっちゃったんだよね。
「ボクも何か拍子抜けしちゃったよ。でもまぁ、虚の襲撃がなければこんなものでしょ。普通の魂魄相手に何がどうなるものでもないし」
「こら京楽、、だからってあんまり気を抜くなよ」
だらりと座りながらご飯を食べている春水や、気が抜けかけている私に、すかさず十四郎が突っ込みを入れる。
生真面目だよね、ホント。
「もちろん、油断しないよ」
虚の襲撃がなくても、いつ十四郎が吐血するか分からないのだ。下手に油断なんて出来ない。
「ん〜、まぁ、気を抜かないように気をつけるさ」
私に続いて春水も十四郎に応えた。
このまま何事もないのが、一番良い事だとわかっていた。
午後も大分過ぎた頃、魂葬も終わって、まだ3人1組に分かたれたままの状態で先輩達3人にねぎらいの言葉を掛けてもらって、何事もなく終われそうだと思った瞬間だった。
先輩達を見ている春水と十四郎の背が僅かに揺れた。
六回生筆頭の先輩は露骨に顔をしかめた。
私は、ざらりと、猫の舌にでも舐められたような、柔らかくけれど抵抗のある、なまぬるく気持ちの悪い風が肌を撫でるのを感じて。
「……これ……」
これが、虚の霊圧なのだろうか?
私の疑問は先輩達の声ですぐに解けた。
「一回生、落ち着いて聞け! 北北東より虚の霊圧がこちらに向かっている。それにあわせて体勢を整えるぞ! 一回生のうち、治癒や遠隔操作の鬼道を得手とする者を後方に、斬術を得手とする者を前方に、それ以外の者は中央に移動しろ! それから、鬼道を発動できてもコントロールの悪いヤツは鬼道を使用するな、味方を打つような力は戦力外だ」
きびきびと、先輩達が指示を下し、私達はそれに従う。
私と春水と十四郎、六回生筆頭の先輩が前方に。
後方には私と一緒に組んだ子達が移動したり、中央にも他のみんなが集まっていって、それぞれに他の六回生の先輩が守りに付いて。
「前方は3人だけか? ……もっと我先にと力自慢の物が集まると思ったんだが」
「ボク達、ちょっと飛び抜けて強いんで」
「俺達、俺達以外に剣術で負けた事がないんです」
「私は、鬼道とか苦手なんですけど……歩法は得意で、剣術も2人になんとか付いていってる感じです」
これから一緒に戦うのだから、ある程度の能力を伝える。
「つまり、他のクラスメイトは全員お前達に勝てた試しがないのか? ……あぁ、確かに霊圧が六回生並だな……」
六回生並の霊圧?
先輩の出した例えに、私はぎょっとする。
春水と十四郎はともかく、私の霊圧がそんなに高いの?
自信、持って良いのだろうか。
否、自信を持たなければ駄目なんだろう。
これから私は、戦うのだから。
護るのだから。
「…………来る」
かすれた声でつぶやいたのは、誰だったのか。
ハッキリと感じとれるようになった虚の霊圧の方角に向かって、私達は太刀をかまえる。
そして、一緒に前方に立った先輩はその方角に顔を向けたまま私に声をかけた。
「歩法が得意なんだったな」
「はい」
「俺とお前でまず打って出て体勢を崩す、他の2人はその後に続け」
『はい』
私と十四郎が応えたのに、春水は仕方ないとばかりにゆるりと笑みを浮かべるだけだった。
「」
「なに? 春水」
「……気を付けて」
あんまり心配そうな声で言うから、思わず声を出さずに笑ってしまう。
心配する気持ちは分かるけど、なんだか可愛いよ、春水。
「だいじょうぶ。気をつけるし頑張るし、……負けないよ」
「良い気概だな」
私の言葉を聞いて、先輩は感心したようにちょっと笑みを浮かべた。
「俺達のなかで一番胆が座っているのって、じゃないか?」
十四郎までそんな軽口を言う。
虚の霊圧は着々と近付いてきて、空気がピンッと張り詰めていくのに。
不思議と、もう、恐くなかった。
満天の星、地には花、そこに在る私の斬魄刀……彼等の名前を知らない。
あの漫画で主人公だった一護が特別なのは解ってる。私が、まだまだ弱いという事も分かっている。
それでも。
「名前、知りたい」
星と花が満ちた夢の中で、私はポツリと呟いた。
私の斬魄刀だと名乗った彼等には、今日はまだ逢っていないけど、この声が届く事を願った。
「知りたいの……、どうしても……護りたいの」
虚は、霊力の高い魂を好む。
つまり、真央霊術院の一回生は格好の獲物なのだ。そこそこ高い霊力、まだまだ未熟な実力、どれをとっても虚にとって美味しすぎるセッティング。だからこそ、六回生が指導にあたるんだろうけど。
それで、心配するなと言われても、簡単に頷ける訳がないじゃない。
「護りたいの……」
仲良くなったクラスメイトには、私より『鬼道』が得意な子がたくさん居る。『白打』で戦う事を得手としているクラスメイトだって何人も居て、『斬術』なら春水と十四郎と私でトップを競っている。
だから、私が一番強いとは思っていない。
けれど、私が一番『速い』のだ。
腕力と霊力と剣術の経験値で春水と十四郎に劣るだろう私が、『斬術』で競っていられるのはふたりより『歩法』が得意で、ふたりより素早く動けるからだと身に染みて分かっている。
わかっている。
もし、虚が現れたのなら、事前にその霊圧を感知できなくても、一番速く動ける私が誰よりも先に虚と対峙する事になるだろうって。
「それで、は、恐くないの?」
「……少し、恐いかな」
出てきてくれた。優しそうで綺麗な男の人。その姿は、一番最初に逢った時から変わらない。
「恐いから、力が欲しいの? ……あぁ、違うね」
「……やっぱり、筒抜けなんだ」
心の中が何もかもバレてしまう斬魄刀とのお付き合いというのは、いささか気恥ずかしい。
恐いだけなら、虚の前に行かなければ良いのだ。
用心して、避難する。それだけで良い。
でも、私は恐いだけじゃなくて、護りたいものがあって。
どんなに恐くても、立ち竦みたくないと願っている。
それは未だに己の斬魄刀の名前すら分かっていない私には、身の程をわきまえない驕った願いだろうけど。
でも、どうしても。
少しでも多くの力を手にして、護り抜きたいと思っている。
そういえば。
「あ……そうだ。あの時、助けてくれて……私の赤ちゃんを護ってくれて、ありがとう。私……それをずっと、あなたに言いたかったの」
こんな時だけど、ずっと伝えたかった事を、やっと言えた。
そうしたら、その言葉を聞いた途端に彼がとても嬉しそうに、ふわりと柔らかく笑う。
今更だけど、もうひとりと同じ顔の筈なのに、なんて印象が違うんだろう。
「にそう言ってもらえて凄く嬉しい。僕は結局、の赤ちゃんしか救えなかったけど……この世界でがしあわせになってくれればと願ってる」
「もう既に、充分しあわせだよ。良い友達も出来て……護りたいの……。絶対に、護るつもり」
私が最後に力強く言い添えれば、彼は分かっているよと言うように頷いた。
「僕もを助けたい。が護るものを護る手助けをしたい。でも、……は本当に、僕を呼ぶことの意味が分かっている?」
「……どういうこと?」
目が醒めた。
「……」
布団の中で呆然としてしまう。
せっかく『彼』が出てきてくれたのに、私ったら何で起きちゃったのよ……!
「、起きた?」
「春水? もう起きているの?」
布団を被ったまま横を見れば、布団の上で身体を起した春水も、今さっき起きたばかりと言った感じだ。春水はいつも寝乱れて寝間着の襟元が弛んで大きく開いてしまうので、寝起きかどうか直ぐにわかる。子ども体温なみに高い体温だから、自然と熱を逃がそうとするうちにそうなってしまうのだろう。今も、弛んだ襟元が大きく開き、鍛えられた胸元が見えていた。
「ちょっと早いけど、まぁいつも通りの起床時間じゃない? ……やっぱり緊張してるのかねぇ」
ふぅ、と息を吐いた春水の話した事で察してしまった。
もう起床時間って事は、ただ単に時間切れだったのかな……。
残念だけど、こればかりは仕方ないか。
気持ちを切り替えて、私も布団の上で身体を起した。
「私も緊張してるかもしれないけど、がんばろう春水」
「そうだね、がんばろう」
魂葬の授業は、一限目から。ほぼ一日をかけておこなわれる予定だった。
いつも通り十四郎と合流して3人で寮の食堂で朝食をとっていたら、今日に限って色んな人が声を掛けてきた。「がんばれ」とか「気を付けて」とか「しっかり」とか、初めての魂葬の授業に行く私達を気に掛けてくれた言葉をたくさん受け取って、身が引き締まる思いだった。
やはり、負傷者も出ることのある『魂葬の授業』は特別なのだろう。
今までは春水に遠慮してか不必要に近付かなかった先輩達も、今日ばかりはそんな風に優しい。
絶対、無事に帰って来ようと思った。
春水と十四郎も、そう思ったのだろう。いつもよりやや緊張した表情になりつつも、どこか力強い眼差しで笑う。
いつの間にか私も笑えていて、こんな時にこんな風に笑い合える友達が出来た事をしみじみと感謝した。
恐くても、大丈夫だ。
頑張る事に、迷いはなかった。
「十四郎の顔色もだいぶ良くなったね」
食欲もあるみたいで、私と同じくらいの体格なのに、何処に入るんだろう? ってくらい食べている。
「しっかり休ませてもらったからな」
顔色も良くなったから、いつも通りの屈託のない笑顔が嬉しい。
「霊圧も安定してるから安心したよ」
春水も、十四郎の顔色や感じた霊圧にホッとしたようだった。
ご飯をしっかり食べて迎えた一限目、まずは『くじ』を引いた後、仮の斬魄刀の『浅打』と『地獄蝶』を生徒全員が受け取る事から始めて、ありきたりだけど『心得』ってものを先生から聞いた。
それから現世へ赴く門の前まで移動し、今は私達を引率する六回生の先輩達を待っているのだけど。
「やっぱりこれ……ホンモノの刀なんだよね」
受け取った『浅打』の重みをずっしりと感じながら、私は呟いた。
身体を鍛えたし、模擬刀での訓練もしたから重くて戦えないなんて事にはならないだろうけど、それでも元々居た世界ではまず滅多に体感できないことで。
なんだかとても、感慨深い。
「って妙なトコで妙に感心するよね」
同じく『浅打』を手にした春水は、ちょっと可笑しそうに笑った。
「本物ではなかったら、一大事だと思うんだが」
十四郎も笑いながら言い添えてきて、この会話を聞いていた周囲のクラスメイトが可笑しそうに笑う。
そんなに可笑しな事かなぁ?
「だって、やっぱり初めて手にした斬魄刀だし、感慨深いよ」
そうやって話し込んでいる内に、六回生の人達が来た。
『くじ』の模様通りに三人一組になりなさいと言われて、私と春水と十四郎はものの見事にバラバラになる。
けれど幸運なことに、十四郎と組む事になった後の2人が昨日相談を持ちかけた子で、ふたりとも私と春水に向かってこっそり頷いてくれた。十四郎の身体の事を気をつけるとか、頼り過ぎないように……むしろ頼られるように頑張るって意味だろう。相談しておいて良かったと思う。
私と組む事になったのは女の子2人で、どちらとも剣術は中の下だけど鬼道が凄く得意、時々ノートを見せてもらった事もある優しくて気さくな子達だ。今日もよろしくと言うと、こちらこそ!と元気に笑ってくれた。
春水と組む事になったのは男の子2人で、よりによって、今まで避けてきたあの『お土産』を出すような中流〜上流貴族タイプのクラスメイトだった。
うっわぁ……最悪かも。
春水、今日一日の辛抱だよ!と視線を向ければ、春水は力なくへらりと笑った。
……が、がんばれっ。
六回生の人達は、クラス全員が三人一組になったのを見届けると、各自の地獄蝶の用意をと言い。
現世へ赴くための声を待ち、クラスメイト全員分の黒い蝶がひらりひらりと漂って。
【 解錠!】
待ち望んだ声に、黒い蝶がいっせいに青空に舞い上がる。
私達は、それを従えて一歩を踏み出す。
門が開いたその瞬間、少しだけ淋しかったのは、赴く現世が私の故郷ではないからだろう。
そもそも時代も違うから、夜に浮かぶ電灯はないし、朝になって陽に照らされて伸びる電柱の影もない。
「残念。懐かしむ事もできないのかも……」
私が小さく呟けば、側に居た一緒の組の子達は不思議そうに首をかしげる。どうしたの?と問われたけれど、答えようもなくて、何でもないと微笑んだ。
だって、今は、此処が私の居場所だから。
笑いながら、頑張る事ができるんだよ。
たどり着いた現世の青空も、尸魂界に劣らず澄んでいて綺麗だった。
まだ、空気の汚れていない空って、こういう感じなのだろう。高く澄んで突き抜けるような空と、美味しい空気って言うのかな、身体を動かすことが気持ちが良い。
「……魂葬してなかったら、ピクニックみたい」
私は2人目を魂葬し終えて(たぶんこれで私の担当は終わりだろう)しみじみと呟いた。
お昼になると持参したお弁当片手に、いつも通り私と春水と十四郎で座りこんで、本当にピクニック状態になってしまう。
見渡せばクラスメイト全員が、今日の一番の話題としてこの魂葬の授業の事を話すのに夢中だ。春水を注視する人が少なくてホッとする。ちらほらこちらを見遣る人もいるけど入学したての時と比べたらぐっと少ないから、クラスメイトだしそろそろ春水に見慣れて来たのかもしれない。
「……こんなにのんびりしていて良いのかなぁ」
もぐもぐとご飯を食べながら、午前までの感想はそんな事しか浮かばなかった。
『浅打』の柄で魂魄の額を押して魂葬終了、繰り返す事の2回、割とあっさり終わっちゃったんだよね。
「ボクも何か拍子抜けしちゃったよ。でもまぁ、虚の襲撃がなければこんなものでしょ。普通の魂魄相手に何がどうなるものでもないし」
「こら京楽、、だからってあんまり気を抜くなよ」
だらりと座りながらご飯を食べている春水や、気が抜けかけている私に、すかさず十四郎が突っ込みを入れる。
生真面目だよね、ホント。
「もちろん、油断しないよ」
虚の襲撃がなくても、いつ十四郎が吐血するか分からないのだ。下手に油断なんて出来ない。
「ん〜、まぁ、気を抜かないように気をつけるさ」
私に続いて春水も十四郎に応えた。
このまま何事もないのが、一番良い事だとわかっていた。
午後も大分過ぎた頃、魂葬も終わって、まだ3人1組に分かたれたままの状態で先輩達3人にねぎらいの言葉を掛けてもらって、何事もなく終われそうだと思った瞬間だった。
先輩達を見ている春水と十四郎の背が僅かに揺れた。
六回生筆頭の先輩は露骨に顔をしかめた。
私は、ざらりと、猫の舌にでも舐められたような、柔らかくけれど抵抗のある、なまぬるく気持ちの悪い風が肌を撫でるのを感じて。
「……これ……」
これが、虚の霊圧なのだろうか?
私の疑問は先輩達の声ですぐに解けた。
「一回生、落ち着いて聞け! 北北東より虚の霊圧がこちらに向かっている。それにあわせて体勢を整えるぞ! 一回生のうち、治癒や遠隔操作の鬼道を得手とする者を後方に、斬術を得手とする者を前方に、それ以外の者は中央に移動しろ! それから、鬼道を発動できてもコントロールの悪いヤツは鬼道を使用するな、味方を打つような力は戦力外だ」
きびきびと、先輩達が指示を下し、私達はそれに従う。
私と春水と十四郎、六回生筆頭の先輩が前方に。
後方には私と一緒に組んだ子達が移動したり、中央にも他のみんなが集まっていって、それぞれに他の六回生の先輩が守りに付いて。
「前方は3人だけか? ……もっと我先にと力自慢の物が集まると思ったんだが」
「ボク達、ちょっと飛び抜けて強いんで」
「俺達、俺達以外に剣術で負けた事がないんです」
「私は、鬼道とか苦手なんですけど……歩法は得意で、剣術も2人になんとか付いていってる感じです」
これから一緒に戦うのだから、ある程度の能力を伝える。
「つまり、他のクラスメイトは全員お前達に勝てた試しがないのか? ……あぁ、確かに霊圧が六回生並だな……」
六回生並の霊圧?
先輩の出した例えに、私はぎょっとする。
春水と十四郎はともかく、私の霊圧がそんなに高いの?
自信、持って良いのだろうか。
否、自信を持たなければ駄目なんだろう。
これから私は、戦うのだから。
護るのだから。
「…………来る」
かすれた声でつぶやいたのは、誰だったのか。
ハッキリと感じとれるようになった虚の霊圧の方角に向かって、私達は太刀をかまえる。
そして、一緒に前方に立った先輩はその方角に顔を向けたまま私に声をかけた。
「歩法が得意なんだったな」
「はい」
「俺とお前でまず打って出て体勢を崩す、他の2人はその後に続け」
『はい』
私と十四郎が応えたのに、春水は仕方ないとばかりにゆるりと笑みを浮かべるだけだった。
「」
「なに? 春水」
「……気を付けて」
あんまり心配そうな声で言うから、思わず声を出さずに笑ってしまう。
心配する気持ちは分かるけど、なんだか可愛いよ、春水。
「だいじょうぶ。気をつけるし頑張るし、……負けないよ」
「良い気概だな」
私の言葉を聞いて、先輩は感心したようにちょっと笑みを浮かべた。
「俺達のなかで一番胆が座っているのって、じゃないか?」
十四郎までそんな軽口を言う。
虚の霊圧は着々と近付いてきて、空気がピンッと張り詰めていくのに。
不思議と、もう、恐くなかった。
